過去に生徒の骨折などの事故も起きているなか、なぜ未だに禁止にならないのか。学校教育におけるリスクについて研究する教育社会学者の内田良氏によると、最近になって再び巨大化の兆しさえあるという。
巨大組み体操は過去のもの、ではない
巨大組み体操の危険性が知られるようになって、数年が経過した。ついには、国連も動いた。
学校がウェブサイトに巨大ピラミッドやタワーの写真を誇らしげに掲載するのは、すっかり過去のことになった。多くの学校で巨大組み体操は姿を消し、運動会も安心して観ていられる状況が訪れつつある。
ところが一部の地域で、巨大組み体操がいまもなお、ひっそりと披露されつづけている。それどころか、再び巨大化の兆しさえ見えつつある。学校はなぜ、高いリスクを冒してまで巨大な組み方にこだわりつづけるのか。

Twitterをとおして私が保護者や教育関係者から巨大組み体操の危険性を知らされたのは、2014年5月のことであった。
その当時私は「組み体操」なるものが何なのかわからず、巨大な組み方の動画や画像を見て驚愕したことを、いまでもはっきりと覚えている。これは放置しておくわけにはいかないと、慌てて各種データや資料を参照し、「【緊急提言】組体操は、やめたほうがよい。子どものためにも、そして先生のためにも。」と題するウェブ記事を発表した。
組み体操に何の先入観もない立場からすると、巨大なピラミッドやタワーは「危ない!」の一言に尽きる。中学生による10段のピラミッドは、高さ約7メートル、土台の最大負荷量は約200kg/人に達する。それは極端な例だとしても、高さが4~5m、負荷が100kgを超えるような組み方はまったく珍しくない。
これを冷静に観察するならば、教師が体育の時間に子どもを高さ数メートルの脚立に乗せてそれをグラグラと揺り動かしたり(実際に組み体操はグラグラと揺れる)、子どもの背中に100kgの石を乗せたりしている状態である。組み体操に特段の思い入れのない私にとっては、巨大組み体操は、生身の子どもたちを駒に使った危険な構造物にしか見えなかった。
国の注意喚起で事故が減少したが…
さすがにこれには、国も口出しをした。巨大組み体操の危険性をマスコミが次々と報じるなかで、スポーツ庁は2016年3月に「組体操等による事故の防止について」という通知を発出し、次のように注意を喚起した。
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各学校においては、タワーやピラミッド等の児童生徒が高い位置に上る技、跳んできた児童生徒を受け止める技、一人に多大な負荷のかかる技など、大きな事故につながる可能性がある組体操の技については、確実に安全な状態で実施できるかどうかをしっかりと確認し、できないと判断される場合には実施を見合わせること。
(スポーツ庁「組体操等による事故の防止について」より抜粋)
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運動会の一種目にすぎない組み体操に国が口を出すのは異例の事態である。それほどに国の危機感は大きかったと言える。
この効果は絶大で、国の動きに前後して自治体でも独自に規制が進み、統計が取り始められた2011年度から2015年度まで8,000件台で推移してきた事故件数は、2016年度には5,000件台に一気に減少した(詳しくは、拙稿「組み体操の事故35%減少」を参照)。
ここまでの話であれば、ひとまず学校現場はマシになったと言える。
ところが、たしかに全国的な傾向として巨大組み体操は縮小に向かったものの、一部の地域では巨大な組み方がいまもひっそりと継続されている。