2019.01.29

失敗を怖れる人間ばかり集まる大企業にイノベーションはできるのか?

入山章栄が語るイノベーティブ人材論
入山 章栄 プロフィール

手段と目的が混同されるダイバーシティ

では、どうすればいいのだろうか。一つのヒントが、大企業にいながら他業種の多様な人たちと交流できる場を設けている「ONE JAPAN」のような組織だ。私が「ONE JAPAN」に注目しているのは、彼らの考え方と存在価値に共感しているからだ。かれらが出した著書『仕事はもっと楽しくできる 大企業若手 50社1200人 会社変革ドキュメンタリー』に私は「組織でもがきながら、境界を超えてつながる彼らにこそ、日本の未来がある」という推薦文を寄せさせてもらった。

ONE JAPAN『仕事はもっと楽しくできる 大企業若手 50社1200人 会社変革ドキュメンタリー』(プレジデント社)

普段は会えない人たちと会うことで「知の探索」に必要なダイバーシティが生まれる。さらに、共通の思いをもって集まる仲間同士には心理的な安全性が生まれるので、失敗も受け入れられやすい。「ONE JAPAN」はこのコミュニティを「実践共同体」と名付けているが、イノベーションが起こるのに必要な条件を持つのは、まさにこのような組織である。私は日頃から、「ONE JAPAN」こそ失敗を許容する組織にしなければならないと主張している。

さらに言えば、ダイバーシティを導入しようとする日本の大企業で起こりがちなのは、その手段と目的を混同するケースだ。2016年に女性活躍推進法が施行されて以来、私の研究室にダイバーシティ推進室長という肩書きのつく方がしばしばいらっしゃる。ダイバーシティを進めるための部署はできたけれど何をしていいかわからないという。

そこで「では何のためにダイバーシティを推進するのですか?」というそもそもの質問をすると、たいてい「わかりません」という答えが返ってくる。会社がそう決めたからとおっしゃる場合もあった。このような認識ではダイバーシティは進まない。ダイバーシティ推進そのものが目的化し、それはイノベーションのための手段であるという理解に乏しいことが多いのだ。

 

それに対して「ONE JAPAN」はもともとバラバラの個人が集まる組織だから、ダイバーシティな組織になっている。これからもっと多様なバックグランウンドを持つ、多様な業界・多様な年代の人たちを入れて、そのダイバーシティ性をますます徹底してほしい。

「ウーマン・オブ・ザ・イヤー」受賞者たちの共通点

繰り返すと、ダイバーシティはイノベーションを生み出すためのものであり、幅広い知見を組み合わせるための「知の探索」ができる場であると考えられている。しかし、「知の探索」はひとりの個人の中でも起こせる。多様な経験と幅広い知見を持っていたら、その人の中で既存の知と既存の知の新しい組み合わせができる。

これは経営学で「イントラパーソナル・ダイバーシティIntrapersonal Diversity」=「個人内多様性」と呼ぶ新しい概念だ。現在、イノベーティブなことができている人のほとんどは、このイントラパーソナル・ダイバーシティが高い。

リーダー育成のプロである岡島悦子プロノバ社長は「キャリアのタグ=比較優位となる強み」を持てと、よく主張されている。会社の中で「あいつは○○に強い」と「想起される」人になれということなのだが、この考えにしたがえば、自分の中にいくつもタグを持っている人は、それらを組み合わせて発想することができるため、イノベーション人材になり得るわけだ。

私は「日経WOMAN」が主催する「ウーマン・オブ・ザ・イヤー」の選考委員をしている。2017年の受賞者たちにはある共通点があった。それはマルチキャリアの持ち主ということだ。異なる職業の経験値を革新的なビジネスにつなげている人たちだったのである。

例えばクリエイターのネットワークを構築し地域創生を手がけるロフトワークの林千晶さんは、花王出身である。その後、ボストン大学大学院を経て、共同通信ニューヨーク支局に勤務したのち日本に戻って起業した。「未来食堂」で有名な社会起業家の小林せかいさんは、元IBMのエンジニアだった。

世界的に評価されるVR用のヘッドマウントディスプレーを開発したFOVEのCEO小島由香さんは、なんと元プロの漫画家だ。彼女はもともと漫画を読むことも大好きで、「漫画の中のイケメンの名前を呼んだら振り返って笑ってくれること」が長年の夢だったという。その発想から生まれたFOVEのヘッドマウントディスプレーは、赤外線で目線の動きを感知する視線追跡機能を搭載して世界中の出資者から12億円を集めた。彼女が漫画家でなければ、この発想自体が生まれなかっただろう。

自身の中に多様性があるからこそ、知の探索ができ、イノベーションを生む。ジョブズの言葉を借りるのであれば、これはコネクティング・ドッツともいえる。事前にはわからないけれど、振り返ると、それぞれの点と点が線でつながっているわけだ。

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