2019.01.29

失敗を怖れる人間ばかり集まる大企業にイノベーションはできるのか?

入山章栄が語るイノベーティブ人材論
入山 章栄 プロフィール

社内から批判「あの部署はカネの無駄」

しかし現実に日本の大企業で「両利きの経営」ができているケースは少ない。先に述べた認知の限界のためであるだけでなく、日本企業の組織に内在する問題もあると私は考えている。ここ10年ほど、多くの大企業で新規事業開発部やイノベーション推進室などが作られた。それらの組織で何が起こっているのか、典型的な例を挙げてみよう。

まず新規事業開発の部門では、最初は元気よく「知の探索」がおこなわれるのだが、3年ぐらい経つと社内で批判され始める。予算ばかり使って結果が出ないことが続くと「あの部署は金ばかり使っているコストセンターだ」などと言われ始めるわけだ。しかし想像も想定もできないものがイノベーションなのだから「絶対に失敗しないイノベーション」などといったものが存在するわけがない。すぐに結果が出なくても、それは当然なのである。

しかし組織では、そんな状況が続くと、なんとか利益を出そうとして目の前で儲かっている分野を深掘りして「知の深化」に頼ることになる。たしかに「知の深化」によって短期的には儲かる。しかし長い目で見たときには、イノベーションに重要な「知の探索」のほうをなおざりにするので、結果的に中長期的なイノベーションが枯渇してしまう。

 

こうした悪循環に陥り「知の深化」に偏ってしまうことを、経営学では「コンピテンシー・トラップ」などと呼ぶ。世界の経営学の視点から言うと、今の日本の大企業にイノベーションが足りないのは、ほとんどの企業が「知の深化」に偏りすぎている、つまりコンピテンシー・トラップに陥っていると言うことができるのだ。

失敗を怖れる人間ばかり集まる大企業

ここまでの前提から、なぜ日本企業にはイノベーションが足りないのか、さらに深掘りした二つの理由を提示しよう。まず一つは、日本企業の多くが「失敗」を許さない組織文化を持っていることだ。

誰もがスティーブ・ジョブズを素晴らしいイノベーターだと考えているだろう。それに間違いはない。しかし試みに「ジョブズ 失敗」でインターネット検索してみてほしい。今はかなりマニアックな人しか覚えていないアップルのソーシャルネットワーク「PING」や音楽携帯の「iPodシャッフル」などなど、使いにくく売れなかった彼の失敗作が驚くほどたくさんヒットする。こうした大量の失敗作がある一方で、ほんの一握りの大ヒットがあり、それがiMacであり、iPhoneなのだ。ジョブズは大天才であると同時に大失敗王でもあるのだ。

ところが、日本の大企業はこうした失敗を許さない。「iPodシャッフル」のような失敗など絶対あってはいけない。徹頭徹尾何一つ間違ってはいけないという組織では「知の探索」などとてもできない。社員からイノベーションなど生まれようがない土壌ができてしまう。

もう一つの理由が人事評価だ。失敗を許さない企業にいれば、社員は失敗を怖れる。人事で評価されないのであれば、あえて失敗をするかもしれないような仕事をする社員などいないだろう。

歴史の長い大企業独特の人事の問題もある。新卒一括採用で終身雇用制度の会社はどうしても自分たちと同じような人間を採用する傾向にある。だから似たもの同士が、同じ組織の中にずっと一緒にいる。これではいけないと思って同業他社を見渡しても、そこでもおおむね自分たちと似たような人たちが集まっている。

右を見ても左を見ても似た傾向の人たちが目の前の知の組み合わせをしているだけでは、イノベーションは生まれない。「最近うちの会社では、新しいことができていない」と思ったら、それは知と知の組み合わせが出尽くしてしまったからなのだ。

このような理由から、「知の深化」に偏った状態から脱して「知の探索」を促すのは、現在の大企業組織ではかなり困難だというのが私の見方である。

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