「ONE JAPAN」2周年カンファレンス Photo by Ryuta Hamamoto

失敗を怖れる人間ばかり集まる大企業にイノベーションはできるのか?

入山章栄が語るイノベーティブ人材論

「日本の競争力は今後のイノベーションが握る」。政官財あげて大合唱だ。しかし個々人の中でこれほど腹落ちしない議論も他にないだろう。イノベーションを阻む要因しか社内に見当たらないからだ。

パナソニックなどの大企業に所属する若手社員が有志ではじめたコミュニティ「ONE JAPAN」が発足から2年で50社1200人を擁する団体に育ったのは、そのモヤモヤした空気を突破したいビジネスパーソンがいかに多いかをあらわす。

どうして企業は変われないのか。どうすれば企業で革新的イノベーションを起こせるのか。その発足以来「ONE JAPAN」の意義を認めている早稲田大学ビジネススクールの入山章栄准教授は、2018年9月30日に「ONE JAPAN」2周年カンファレンスでプレゼンテーションをおこない、大型台風が迫っていたにもかかわらず集まった1000人が聞き入った。その内容をベースに構成した談話記事をお届けしよう。

今のままで10年先はない

今ほど多くの日本企業がイノベーションの必要性を声高に叫ぶ時はかつてなかったかもしれない。その背景には、言うまでもなく人工知能、IoT、ブロックチェーン、将来的には量子コンピュータといった急速なテクノロジーの進歩があり、GAFAのようにそれらを自社の製品・サービスにうまく適応できた新しい企業群が伝統的企業群にとって代わり、産業そのものを根こそぎ変え得る勢力になってきたことがある。

このことは多くの人が共通して認識していることだろう。例えば自動運転テクノロジーの競争の渦中にある自動車産業にいる方々の中には、自社が今のままで10年先を迎えられるとは思えない、というほど深刻な危機感を抱えている方も多い。

では、なぜ日本企業にはイノベーションが足りないのか。イノベーションとは新しいアイデアを生み出すことだ。

どうしたら生み出せるのか、その経営学における原理の一つが、ジョセフ・シュンペーターが80年以上前に提唱した”New Combination”、直訳すると「新結合」である。

イノベーションとは既存の知と既存の知を組み合わせて新しいアイデアを創り出すことになる。すなわち、人・組織は常に新しい知と知を組み合わせ続けなければ、イノベーションはおきないのだ。

ところが人間の認知には限界がある。どうしても目の前で認知できるものだけを組み合わせる傾向になってしまう。

したがって、それを克服するための第一歩が、目の前ではなくて、自分のいる場所からなるべく遠く離れたところを見て、遠くの知を幅広く探索し、それらを持って帰ってきて、いま自分にある既存の知と新しく組み合わせることだ。

 

これを経営学では”Exploration”と呼ぶ。この概念を私は『世界の経営学者はいま何を考えているのか』(英治出版)という著書で「知の探索」と訳した。人間の認知に限界がある以上、この「知の探索」がイノベーションを生むのに果たす役割は決定的に大きい。

TSUTAYAのレンタル事業は消費者金融から発想

日本におけるイノベーションも多くは知の探索で生まれている。例えば必要な部品を必要な時に必要なだけ揃えるトヨタの「ジャスト・イン・タイム」の生産システムは、アメリカのスーパーマーケットの仕組みと自動車生産の仕組みを組み合わせたことで生まれている。

また、TSUTAYAのレンタル事業も同様で、1000円のCDを3日100円でレンタルする仕組みは、同じように元金を貸して利益を取ることで収益を取る消費者金融から発想されたとされる。創業者の増田宗昭氏はそこから着想してあのビジネスに目をつけたと言われているのだ。これくらい遠くを見ないとイノベーションは起きないのである。

とはいえ、企業は「知の探索」ばかりしているわけにはいかない。すでに社内に持っている知を改良したり、同質の知を積み重ねたりして、それらをビジネスに活用し収益を生み出そうとする。これを経営学では”Exploitation”、「知の深化」と呼ぶ。

スタンフォード大学のジェームス・マーチが1991年に発表した論文「Exploration and Exploitation in Organizational Leading」で、「知の探索」と「知の深化」の両方をバランスよく実現することが非常に重要であり、このバランスがよい企業、組織、ビジネスパーソンがイノベーションを起こせる確率が高いとされている。これはまた”Ambidexterity”、「両利きの経営」といい、世界のイノベーション研究で多くの経営学者が依拠する考え方だ。