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足立区の治安を劇的に良くした「愛錠ロック大作戦」とは何か?

まちを変えた「究極のお節介」
治安が悪い、学力が低い、ヤンキーが多い……何かとマイナスイメージを持たれがちな足立区。ところが近年、東京23区で「定住率ナンバーワン」を誇るなど、その住みやすさから再評価が進んでいるという。足立区に何が起こっているのか? 『なぜか惹かれる足立区』(ワニブックス刊)の著者で、一般社団法人「東京23区研究所」所長の池田利道氏に、近年、足立区が推し進めている治安の向上、高齢者の孤立ゼロ、健康寿命を伸ばすなどの施策について解説してもらった。

治安はどんどんよくなっている

前回記事の最後に、「筆者の足立評価は高い。区政はもとより、区民を巻き込んだ動きの広がりを実感できるからだ」と書いた。今回の記事では、その好例と言える取り組みを紹介したい。

自ら率先して自らを変えていく。そんな足立での取り組みの始まりとなったのは、2008年にスタートする「ビューティフル・ウィンドウズ運動」の展開だった。単に最初というだけでなく、ここで培われた精神は、その後のあらゆる取り組みの基本となっていく。

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ビューティフル・ウィンドウズとは、割れた窓ガラスを放置しているとまち全体が荒れていき、犯罪も多くなるという「割れ窓理論」に基づいている。つまり、小さな犯罪を小さな芽のうちに摘み取ることで、まちの治安の総体的な底上げを図っていこうとする考えである。

ここで足立区が目をつけたのが「自転車」だった。

犯罪と聞くと殺人・強盗などの凶悪犯罪や暴行・傷害、詐欺、空き巣などが思い浮かぶが、実は一番多いのは自転車泥棒やバイク泥棒などの「乗物盗」(放置されていた自転車を乗り逃げする「自転車占脱〈占有離脱物横領〉」を含む)だ。

2008年には、これが23区全体で発生した犯罪の3分の1以上を占めていた。足立区はもっと多くて約4割。そこで足立区は、犯罪撲滅に向けた取り組みの的を、自転車に絞り込むことにする。

自転車が盗難にあう最大の理由は無施錠。面倒くさいのはもちろんのこと、すぐに帰ってくるからと油断することが被害を引き起こす。

そのため、自転車の無施錠の解消こそがビューティフル・ウィンドウズづくりの第一歩と、区は「ワンチャリ・がっちり・ワンロック作戦」「ワンチャリ・ツーロック作戦」など様々なキャンペーンを繰り返していく。

 

究極は、駐輪場に置かれたカギをかけていない自転車に、勝手にカギをかけてしまう「愛錠ロック大作戦」。お節介きわまりないが、根がお節介な足立では、こうした取り組みが区民の中に浸透していった。

中心となるのは区と区内の4つの警察署およびその関連団体。2009年には警視庁との覚書が交わされ、さらに2015年には区内4署との協定へと発展していく。

しかし、ビューティフル・ウィンドウズ運動の最大のポイントは、広く区民を巻き込んだことにある。

その意味からも、自転車は分かりやすい戦略ターゲットとなった。まちの掃除や、花いっぱい運動、喫煙マナーの向上など、「きれいな窓づくり」の一層の広がりを目指す取り組みが、「連携」を合言葉に今も繰り広げられている。

足立区の犯罪発生数が23区の平均を超える勢いで減少していったことは、この取り組みの大きな成果となった。

しかし、それ以上に大きな成果は、区民の心の変化だ。区民の治安の評価は、運動が始まったばかりの2010年には「悪い」が「良い」を大きく上回っていたが、2013年には逆転し、いまでは「良い」が「悪い」を2倍近く上回っている(下図)

そしてもうひとつ。「やればできる」の気持ちを多くの区民が共有できたこと。この自信の広がりに支えられ、足立を変える取り組みは新たな段階へと踏み出すことになる。