そして「生命2.0」への道(後編) 体に刻まれた宇宙の非対称性

生命1.0への道 最終回
藤崎 慎吾 プロフィール

生命の紐は、どこから紐なのか?

さて1年余りにわたって、生命誕生以前から我々「生命1.0」へと至る道を、自分なりにたどってきた。読者の方々はどんなイメージを抱いているだろう。連載を読み始める前と後とでは、何かが変わっただろうか?

最近になって僕の頭に浮かぶようになった「生命1.0への道」は、1本の紐や縄のイメージである(写真3)。つるんとしたコードのようなものじゃなくて、何本もの繊維が撚り合わせられているやつだ。それは端のほうへと辿っていくにつれて、少しずつほどけていく。繊維の1本1本がばらけていき、その繊維自体もまたさらに細い繊維に分かれて、最後は煙のように見えなくなってしまう。

【写真】「生命1.0」のイメージ
  写真3「生命1.0への道」のイメージ

そうした繊維の1本は、たとえばアミノ酸からタンパク質ができていく過程だったり、核酸塩基からRNAができていく過程だったり、脂質から袋のような構造体ができていく過程だったり、あるいは鉱物の表面でATPのようなエネルギー源ができていく過程だったりする。

どれが先に始まったということはない。それぞれが絡み合い、お互いに影響し合っていくうちに、だんだんと1本の紐に撚り合わさっていく。その途上で、あちこちに「生命0.1」や「0.2」「0.5」などが生まれていっただろう。

最後はさまざまな種類の「生命0.9」が集まって、お互いに支え合い、補い合っていたはずだ。そして、どこかの時点で、しっかりと「紐」と呼べる状態になる。それが「生命1.0」誕生の瞬間だ。

しかし我々はその瞬間を特定できるだろうか。紐の端っこをたどっていって「ここからがちゃんとした1本の紐です」などと言えるだろうか。おそらく無理だ。それを決めようとして繊維をほぐしたりすると、ますますわからなくなってしまう。

そして紐のもう一方の端、つまり未来を追いかけていっても、同じことが言えるかもしれない。紐はいつまでも1本のままだろうか。また解けて枝分かれしたり、あるいはまったく別の世界で生まれた紐が、絡みついてきたりはしないだろうか。そのときに、どこまでを「生命1.0」だと決められるだろう?

もちろん答えは誰にもわからない。だが生命誕生への道筋が無数にありそうなのと同じくらい、我々の行き着く先にも無数の可能性があるはずだ。もし変化していくなら、その予兆だけでも見届けてみたい。さほど時間は残されていないと思うが、自分が「生命」であるうちに。

長い間、ありがとうございました。