# マネー戦記

大損失だ…!ハゲタカファンドに睨まれた証券ディーラーの苦悩

東京マネー戦記【4】2003年晩夏
森 将人 プロフィール

ある男からの電話

売却すると決めると、時間が経つのが早かった。

これは上からの命令なんだ。そう思うと、自分の取引に対するこだわりが薄れるのか、思い切って売却することができた。D社以外の取引益が順調だったことも、ぼくの背中を押してくれた。

数日後、思いがけない人物から電話があった。証券会社のディーラー間では、在庫調整を目的として取引する市場がある。ディーラー同士で連絡を取り合うのはよくあることで、ある証券会社に所属する友井はその一人だった。

「今日も買わされちゃってさ。またD社の在庫が増えちゃったよ」

友井はぼくより数年年上で、ディーラーとしてのキャリアも長かった。果敢にリスクを取ることで知られており、今回の相場上昇局面でも大いに収益をあげているという。

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だがその彼もD社に関する限り、置かれている状況はぼくと変わらないようだった。上司と投資家の板挟みにあって、苦しんでいる様子がお互いわかるだけに、気を許している面もあった。

「ぜんぜん買い手が見えてこないですね」

「持ってるのも限界だよ。相当金額が大きくてさ、さっきもうちの課長に怒られたばかりなんだ」

「考えることはどこも一緒ですね」

「バカらしいと思わないか? 同じことばかり繰り返してさ。俺たちが売ったら、そのときがマーケットの底になる。そのことが、いくら経験してもわからないんだ。ディーラー同士が組めば、すごいことができるのにな」

 

思いを共有できる相手と話すと、不思議と気持ちが明るくなる。ぼくは友井の言葉に聞き入っていた。

「すごいこと、ですか?」

「在庫を交換するんだよ。君が持ってるD社の社債と俺の在庫を、同じ値段で取引するんだ。これだけ値段が下がると多少は損が出るかもしれないが、安く仕入れたと思えば上司も安心するだろ?」

「そうかもしれませんけど……」