# マネー戦記

大損失だ…!ハゲタカファンドに睨まれた証券ディーラーの苦悩

東京マネー戦記【4】2003年晩夏
森 将人 プロフィール

カリスマ創業者の逮捕

創業者の逮捕は衝撃が大きかった。株価はストップ安をつけ、社債の価格も一気に10円以上下落した。在庫はすでに数十億円あったので、それだけで数億円の損失だ。手が震えて、ぼくの名前を呼ぶ同僚の声が耳に入らなかった。

本当の地獄がはじまったのは、翌日からだった。あらゆる投資家が、買い手を求めて売り注文を出してくる。怖いのは、値段がいくらでも売りたいという投資家の存在だった。ぼくが買い取り価格を下げても、ひたすら追いかけてくる。

在庫が増える一方で、市場価格は下落を続ける。完全な悪循環に陥っていた。

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「どうするかなあ」

一日の処理を終えると、木村がぼくの横の席に座った。隣は先輩ディーラーの席だったが、彼はすでに帰宅していた。

「流れが急すぎて、誰も手が出せないんです」

「それだけならええんやけどなあ」

「どういう意味ですか?」

 

「この会社の将来に、どんなんがあるか考えてたんや。同業他社に買収されるのが、一番ハッピーなシナリオやろ」

「信用力が回復して、業績が戻るのも早いでしょうね」

「次に銀行が支援して、その管理下で生き残る場合や」

「経営方針は変わりますけど、つぶれることはないでしょうね」

「問題は、どこの助けも断る場合や」

「今の状態がしばらく続くっていうことですか?」

「これまで創業者が大事に育ててきた会社や。意地張って現実を認めたがらない、いう可能性もゼロではない」

「そんなこと……」

「するはずないか? わからんで。会社に対する思い入れは強いやろうからな。この動きを見とると、最悪の場合も考えといたほうがええような気がしてならんのや」

ぼくは木村の言葉が、気味悪くて仕方なかった。