# マネー戦記

大損失だ…!ハゲタカファンドに睨まれた証券ディーラーの苦悩

東京マネー戦記【4】2003年晩夏
森 将人 プロフィール

あるIT企業をめぐる誤算

ぼくがつまずいたのは、DというIT企業の不祥事だった。

会社の代表でもある創業者が、脱税の疑いをかけられているという週刊誌の報道が発端だった。当初は代表個人を対象とした事件だったが、会社ぐるみの事案であることが発覚するまで時間はかからなかった。

企業の信用力を測るうえで、その会社の評判は重要な要素だ。とくに社歴の短い企業において、評判は直接業績に結びつくものではなくとも、ときとして会社の営業基盤に致命的な影響を与えかねない。

 

ぼくはD社の社債を持っていなかったので、売りたいという投資家の相談は値段次第でなるべく受けるようにしていた。マーケットに買い手はほとんどいなかったが、むしろそこにこそ、自分の勝てる可能性があると思っていた。

「何でこんなに下がるんですかね」

ブルームバーグのスクリーンに示されたD社の価格推移が、ぼくには不思議で仕方なかった。反発する瞬間もあるが、なかなか買いが続かない。

Photo by gettyimages

ほかのIT企業と同様に、D社の収益力は高かった。安定感もある。不祥事を加味しても、割安と判断しておかしくなかった。

「この事件のほかに、市場が懸念してるポイントはないんか?」

「考えにくいですね」

「見落としがないとすれば、これから新しい材料が出てくることを警戒してるんやな」

「それにしたって、もう十分安いと思うんですけどね……」

木村とは、毎日のようにD社について議論していた。

懸念すべき点は、会社の意思決定において、創業者の影響が依然として大きいことだった。IT革命という言葉で社会の仕組みを否定し、自分たちの価値を理解できなければ買わなくていいと、マーケットにも背を向ける。

オーナーのカリスマ性が今まで会社を引っ張ってきたが、彼が経営から距離を置かざるを得ないとなると、D社にどんな将来像を持っていいのか想像がつかなかった。

もしかしたらこの段階で、木村は危ないと思っていたのではないかと思う。自分なりの見方を持つことはもちろん大事だ。しかし、より大事なのはマーケットがどう反応するかで、何がマーケットを動かしているのかがぼくには理解できなかった。