ZOZO前澤社長「100万円バラまき」に感じるモヤモヤの正体

「きれいでただしい」者だけ救われる?
御田寺 圭 プロフィール

「ただしい金の使い道」とは何か?

告白すると、私はどちらかといえば貧困層の人びとも多く暮らす地域で育った。貧しい人の金の使い道は、そうした自分の経験からいえば、残念ながらたいてい、今回当選した人びとのように「ただしく」もなければ「きれい」でもない。「SNS映え」するようなものでももちろんない。

滞納した家賃を支払ったり、食費にあてたり、光熱費にあてたり、借金を返済したり、ギャンブルに使ったり……そういった類のものだ。その中には、はたから見れば「浪費」や「無駄遣い」にしか見えないようなものもあるだろう。

今回のキャンペーンでそんな人を当選させても、前澤氏にとってはイメージアップに寄与しなかっただろうし、ZOZOにとっての宣伝効果も希薄だったろう。「社会に貢献する人」「大志を抱く人」に1億円投じて後押しするからこそ、前澤氏とZOZOに利益をもたらすと判断したのだろうし、そうした人が選ばれること自体には何の不思議もない。

 

念のために言えば、今回のキャンペーンはあくまで前澤氏個人の私費でまかなわれたもので、なんら公共性があるわけでもなければ、それが要請されるわけでもない。「本当に生活に困っている貧乏人に配れ、それがノブレスオブリージュだ」などと批判したいのでもない。

抽選と謳いながら実際はそうではなかった――ということをもって「騙された」と考える応募者もいるだろうが、厳密にそれを立証する方法はない。そもそも前澤氏の企画なのだから、どのようなルールによって運用されるかは前澤氏が決めるのであり、外野がとやかくいう筋合いはないだろう。好ましからぬ動機の人間をハネることくらい当然だ――という指摘は、まさに「正論」だ。

公共の領域へ染み出す「正論」

だが、このような「正論」に対する大多数の賛意は、別のところでは負の力を帯びて噴出し、この社会の分断をより深めているのではないかと私は考えている。

昨今、金銭や資源を「自分にとって好ましい人びと以外には使われたくない」という感覚は、もはや私的領域を超え、公共性のともなう領域にまで及びつつあるように見えるためだ。

〈京都市の保護施設再編で市境に生活保護受給者の救護施設が整備される京都府向日市の住民が、不安の声を上げている。運営法人が京都市と開いた説明会では、集まった向日市民ら約500人がホームレスや刑務所から出所した行き場のない人らの入所へ戸惑いを見せ、施設整備の白紙撤回を求めた。会場では怒号とやじが飛び交うなど紛糾した〉(京都新聞「ホームレスら救護施設、説明会で怒号 市民ら『白紙撤回』要求」2019年1月17日、https://www.kyoto-np.co.jp/top/article/20190116000116より)
〈今、東京都港区の一等地が揺れている。南青山に建設される予定の施設をめぐり、説明会で一部の住民が猛反発するなど紛糾。思わぬ事態に、著名人も巻き込んだ論争へと発展しているのだ。

問題となっているのは、子ども家庭支援センター・児童相談所・母子生活支援施設の複合施設である「港区子ども家庭総合支援センター(仮称)」。同センターは、多様な文化や人との出会い・交流、学習の場として子育てを応援すると共に、支援機能と児童相談所の専門機能を一体化させて総合的に支援していくという。(中略)

説明会では反対派の恫喝にも近いような物言いが目立ち、「私は納税者ですよ。港区民を愚弄するんですか」という声もあがったというから穏やかではない〉(「南青山『100億円』児童相談所建設に住民から『土地の価値下げないで』『騒音公害』と反対も」2018年12月18日、https://biz-journal.jp/2018/12/post_25971.htmlより)

前澤氏のキャンペーンはあくまで私的なものであった。しかし、私たちの社会はこれと同種の論理を、公共の領域にも持ちこみ始めているのかもしれない。少なくとも私にはそのように見える。

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