アナウンサーのいじめと元官僚の拒絶で知った「プレゼン」の極意

一方通行では伝わらない
リップシャッツ 信元夏代 プロフィール

私が今スピーチの技術をまとめている「ブレイクスルーメソッド」では”One Big Message “(ワンビッグメッセージ)と呼んでいますが、伝えるにはたったひとつの大事なメッセージ、「ワンビッグメッセージに絞る」ことがとても大切なのです。

スピーチやプレゼンは「その場でいかに喋るか」にかかっているかと思われがちですが、実際には話すことより、ずっと前の段階で決まってきます。

聞き手に持ち帰ってもらいたい「たったひとつのメッセージ」を絞り込んで、要らない言葉は削ぎ落としていく。プレゼンとスピーチづくりはまさに「情報の整理術」であり、「いかに最重要な情報のみへと整理するか」にかかっています。

 

簡潔に、わかりやすく「KISS」して

そしてもうひとつジャニスに徹底的に指導されたのが、「エピソードを具体的に目に見えるように話す」でした。

例えば、「私はその晩泣きました」といったくだりを話していても、ジャニスからは、

「最初から大泣きしていたの? それとも泣きのスイッチが入った瞬間があったの? それはいつ? その時周りには誰かいた?何があった? あなたはどういう風にして泣いたの? どういう気持ちで泣いたの? 悲しかったから? 悔しかったから? 絶望したから? 情けなかったから? あなたの頭の中にはどんな言葉が浮かんでいたの?」

など、気持ちが痛いほど伝わるように具体的に描写するように注意されました。

具体化するプロセスは、自分を内省するプロセスでもありました。スピーチ作りで、自分の経験をふり返って、感情を呼び起こし、具体化することは、自己の成長をうながすものでもあったのです。

同時に、「伝える」には「キッスすること」が大事だとよく言われます。

英語でいうと、”Keep it Simple, Stupid/Keep it Simple, Short”といい、この頭文字を取って、「KISSの法則」と呼ばれているのです。つまり、「短く、わかりやすく、簡潔に話せ」ということです。

私の「ブレイクスルーメソッド」では「Keep it Simple, Keep it Specific」(簡潔、簡明に)と提唱しています。

心に残る「簡潔さ」とは

スピーチやプレゼンする人が、難しい単語や専門用語を駆使して、権威を増すように見せるケースはよく目にします。

たとえばアメリカ人のスピーチでも、よくこういうダメな例があります。
「専門的でむずかしい単語を駆使して、知識をひけらかす」
「いろんなことを詰め込みすぎていて、なにがいいたいかわからない」

それだったら、私のように英語の語彙力がネイティブに比べたら低くても、「わかりやすく」「具体的に」「簡潔に」伝えたほうが伝わるのです。

さて、具体的にどうしたらKISSになるのか、実例をご紹介しましょう。

これは私が手がけた、ある研究施設を、見学者の方たちに説明するスピーチの出だしです。もとの原稿はこのようなものでした。

ブレイクスルーグループは、ICTの各種サービスを提供とこれらを支えるプロダクトの開発、製造、販売から保守運用までを総合的に提供する、トータルソリューションビジネスを行っています。

その中でブレイクスルー研究所は、グループの研究開発の中心を担っており、ICTに関わる全般の応用研究、事業化研究、基盤技術研究に取り組み、最先端、高性能かつ高品質の製品やサービス、ビジネスを創出することで、グループの成長を牽引することをミッションとしております

この文章は、ビジネスの文章としては問題ありません。施設の説明としては正しいでしょうし、ビジネス文書の言い回しとしてはよく見るような文章です。

しかし実際の状況を想像してみて下さい。
見学に訪れた一般の方たちが、この説明を耳から聞いても、よくわからないまま、聴き流してしまうのではないでしょうか。

なぜならここでは「簡潔」「簡明」に語る工夫がされていないからです。
そこで「KISSの法則」を応用してみると、こんなふうになります。

衛星放送、銀行ATM、電子カルテシステム。さて、この3つの共通点は何でしょうか。それはブレイクスルーの情報通信技術、ICTです。
ブレイクスルーグループはICTを通して、様々なビジネスや社会に新たな価値を生み出し、革新的な成果を次々と発信しながら世界をリードしてきました。

その研究開発の中心を担っているのが、皆さんが今いらっしゃる、ここ、ブレイクスルー研究所です

ICT技術とは何かについて具体的な描写をいれることで、聞き手にとってもわかりやすくなっています。

なおかつ「皆さんが今いらっしゃる」こここそが、その研究機関の中心なのだ、ということで、聞き手にも「自分ごと」として興味を持つように導いています。

伝わりやすさとは、長々と美辞麗句を並べたり、要らない形容詞をつけたりことではありません。簡潔に、具体的に語ることで、より「伝わる」のです。

そしてこれらのメソッドは、「聞き手に寄り添って話す」「一方的ではなくキャッチボールで話す」ということのために必要なことにほかならないのです。

次回は他のメソッドも含め、私が一度はダメになりかけたビッグビジネスが成立したお話をお伝えしたいと思います。

構成/黒部エリ

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