アナウンサーのいじめと元官僚の拒絶で知った「プレゼン」の極意

一方通行では伝わらない
リップシャッツ 信元夏代 プロフィール

台本にないことばかり振られて

開会したとたん、私は窮地に立たされました。彼から台本とはまったく関係なく「さて、信元さん、今日は何人くらい参加していらっしゃるでしょうかね?」と、いきなりふられたのです。

瞬間あたふたとしましたが、幸い幹事であったために人数を知っていて、
「今日は120人もの方にお越しいただけました。盛況で、なによりです」
と答えることができました。

つぎに彼は突然壇上から降りると、会場を回っていってお客さまに直接話しかけるというスタイルでインタビューを始めました。これもやはり台本にはなかったことで、私はぽつんと壇上に残されてしまったのです。

しかしそのまま黙って立ちつくしているわけにもいきません。

彼が声をかけた方に、
「田中さん、ゴルフ大会では優勝おめでとうございました!」
といったように相手のお名前を口にして、壇上から彼と参加者とのやりとりにかぶせていきました。

そうやって必死になってついていったおかげか、その後は普通に司会者としてやりとりをしてくれて無事に閉会しました。

NYでの大きなパーティ。必死でプロの司会についていった信元さん 写真提供/信元夏代

司会やスピーチは「双方向の対話」

そこで学んだことがふたつあります。

ひとつはスピーチや司会をすることが一方通行ではなくて、「双方向の対話」だということ。スピーチや司会とは、聞き手とのキャッチボールで成りたつのです。よく話し方のアドバイスで「アガらないように、相手をカボチャと思え」というセリフを聞きますが、実際には正反対です。

司会者はその場の空気を読んで、その雰囲気にあった話をする。参加者たちの反応から次の話を繰り出す。そしてひとりで喋るときでも、ひとりずつ顔を見て、その表情から読みとって、対話する。相手からキャッチしたものに投げ返すといった、コミュニケーションのやりとりが大切なのです。

人前で話すということは、「台本を一方的に読みあげるものではない」と気づいた瞬間でした。

もうひとつ学んだのは、同じことをいうのでも、プロは感情をこめられるということです。「今日はお越しいただいてありがとうございます」という一言でも、声に表現力があり、ストレートに伝わってくるのです。

 

それでなにがいいたいの?

プロの話し方に感動した私は、アナウンス学校で話し方を学んでみました。そこで得たものも多かったのですが、表現力などの技術や、カメラに向かってしゃべったり、台本にそってしゃべったりする「話し方」は、ビジネスの実践の場で人を動かせるようになりたい!という、私が求めていたものとは違っていました。

ビジネスシーンでは、自分が伝えたいことを自分の言葉で伝えて、相手を動かす、相手の頭と心に届けることをしないと、成りたちません。司会の体験を経て、「生身の相手に伝わる話し方を学びたい」と感じるようになりました。

そんなときに前回お話した素敵な日本人の方と出会い、ぜひ私も学べる場を探したい、と「トーストマスターズ」というスピーチの学校に入会したのです。

そして前回の記事の通り、「スピーチ大会に出てみては?」と勧められて、2013年に初めてスピーチ大会にも出場しました。

そこで準決勝に臨もうとしていたとき、ジャニスというベテランの女性に無償でコーチングをしてもらえることになりました。予選を通過していた私は、自分のスピーチはなかなか良い出来だと信じていて、「ジャニスに練習相手になってもらえたら良いかもしれない」、と甘く考えていました。

ところが、いざコーチングが始まってスピーチを披露してみると、ジャニスが開口一番いったのは、このセリフだったのです。

「ナツヨ。それで結局、なにがいいたいの?」

なにがいいたい?
いいたいことなら、すべてスピーチに盛り込んでいたはずです。しかしジャニスが指摘したことは、正反対のことでした。

たったひとつのメッセージに、思い切って削ぎ落としなさい

目からウロコが落ちた瞬間でした。
「相手に伝わる」とは言葉をつくすことではない。その正反対で、徹底的にメッセージを絞り込むことだったのです。

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