元経済ヤクザも驚愕「ゴーン事件、カネの流れから見えて来るもの」

私が違和感を抱いたのはここだった
猫組長(菅原潮) プロフィール

ブラック・ボックス

最後に今回の事件を解明する「カギ」の存在に触れてみたい。そのカギは国際金融取引の中に埋もれていると私は考えている。

繰り返しになるが「SBL/C」の受け手になったのが新生銀行だ。国際送金においては通貨ごとに経由地点となる「コルレス(コルレスポンデント=代理人の略)銀行」が定められており、今回の場合、新生銀行は「コルレス銀行の窓口」となるドメスティック銀行である。

日本の銀行が行う海外送金業務のほとんどでは、現金をストレートに送金する。現役時代に私が日本のドメスティック銀行から「SBL/C」を送ろうとした際、銀行窓口はパニックになった。長時間の説明も試みたが、「できない」という答えが返ってくるのみだった。

 

確かに一種の証券としての「SBL/C」は国際金融の舞台では投資や運用に恒常的に利用されている。現在でも閉鎖性が強くガラパゴスな環境にある日本の金融状況にあって、ドメスティック銀行である新生銀行が、個人負債の担保として海外の銀行から送られてきた「SBL/C」を円滑に受け入れることも同じく難しい――というのが私の経験からくる観測だ。取引には、ゴーン氏側からの入念な事前説明と、相手先金融機関からの説明がなければ不可能だろう(私はゴーン氏と新生銀行の間に「契約書」が交わされた可能性を疑っているが)。

実はその証言の一部は、記録として残されている可能性があるのだ。

国際送金においてはSWIFT(スイフト)が使われる。これは本部をベルギーにおく「国際銀行間通信協会」の略称だが、ほとんどの金融機関の国際間の金の送受信はこのシステムの上で行われる。SWIFTは現金だけではなく「SBL/C」の送受信も行う。SWIFTの送受信の際には、「MT」で始まる一種のマクロプログラム(プロトコル)で指定する。通常の現金のストレート送金は「MT103」から書き出され、経由銀行や到着先口座などを指定していく。

このプロトコルという行文の技術的な説明は割愛するが、「SBL/C」を入庫する際には、相手先銀行からMTのテキストが事前通知(プレアドバイスという)される。その「プレアドバイス」の前に、担当者(オフィサー)同士はSWIFTシステムを使った、メールでやりとりをするのが実務上の常識だ。

メールには、この「SBL/C」がどこから振り出され、誰が保証して、焦げ付いた時にどのように処理されて、どう現金化していくのか、などの「生の情報」が詰まっていることが多い。このメールには公開義務がないことから、そうした生々しいやり取りがなされるのだ。

30億円の「SBL/C」は無傷だったことが報じられているが、「SBL/C」の有効期限は366日(1年+1日)で、延長(ロールオーバー)が可能だ。現在でもそれが「担保」として生きているのであれば、メールが残っていることは期待できるだろう。

東京地検特捜部がどれほどの資料を押収したのはわからないが、「プレアドバイス」に付帯された「メール」は、本件の「マネーロンダリング」疑惑の構造を解き明かすブラック・ボックスだ(ただし、万が一にも新生銀行がこれらの背景を知っていながら関与したことが明らかになれば、新生銀行も責任を問われてしまう。まあ、そんなことはないと思うが)。

PLOの議長・アラファト氏が天寿を全うした大きな理由の一つが、4452億円とも言われる個人資産の暗証番号を誰にも教えなかったことだ、と言われている。暗殺してしまえば、その莫大な金も同時に葬り去られるからだ。「他人を信用しない」というのはマネーの世界に生きる人間が常に持つ「戒め」であり「安全保障」なのだ。

【PHOTO】gettyimages

昨年12月20日に、特捜部が申請した拘留延長を東京地裁は却下している。1月15日にゴーン氏側の保釈申請を東京地裁が却下するにあたって、特捜部はそれなりの具体的な証拠を出さなければならなかったはずだ。最終到達地点までたどり着けていないまでも、「いまゴーン氏が外に出してしまえば、資金を動かされる。そうなれば、不透明性の高い資金移転の解明は振り出しに戻ってしまう」――合理的に導き出される地検側の主張はこれだろう。

1月22日にはゴーン氏側の保釈申請が2度目の却下となった。相次ぐ拘留延長は地検の苦し紛れの一手ではなく、確実な解明に向かっていることの表れだと私は考えているが、さてどうなるか。事件の推移を引き続き見守っていきたい。