元経済ヤクザも驚愕「ゴーン事件、カネの流れから見えて来るもの」

私が違和感を抱いたのはここだった
猫組長(菅原潮) プロフィール

「見せ金」

さて、ジュファリ氏からの30億円の「SBL/C」だが、ゴーン氏が焦げ付いた場合、ジュファリ氏にはこの30億円の支払い義務が生じる。ゴーン氏側もこれについて、「ジュファリ氏は極めて高いリスクを負った」と主張しているが、こう聞くと多くの人は「SBL/C」の発行には、実際にそれを保証する30億円が必要だと考えてしまうだろう。しかし、それは大きな間違いだ。

確かに「SBL/C」は物や金の取引に使われるのだが、国際金融の市場ではそれ自体が「証券」としてリースされたり、売買されたりしている。

30億円の「SBL/C」をリースする際に必要な金額は、手数料を含めて9.5%だから約3億円ほど。発行銀行の格や相場にもよるのだが、額面「30億円」の売買金額は、安くて4~5千万円というところだ。国際金融においては表の経済人も、こうして入手した「SBL/C」などの証券を、いわば「見せ金」にして、投資として運用するなどしている。

ゴーン氏のように個人間の担保として「SBL/C」が使われる場合は、「リース」や「売買」されたものが利用されるのが通常だ。こう判断できるのは、石油取引を通じて知り合った多くの中東の黒い経済人たちを見てきたこと、そしてかつての私もその一人だったからだ。もっと言えば、「証券」のように使う場合に、額面通りの現金を用意している人を私は知らない。

その「SBL/C」には、それが誰に対してのものなのかを示す「発行先」(ベネフィシャリー=受益者)が記載されている。振り出し元がコケた際に、責任を負うのがこのベネフィシャリーである。そこで重要になるのが、ベネフィシャリーの信用能力だ。

ゴーン氏個人に支払い能力があるのであれば追加担保は必要ないのだから、30億円の「SBL/C」のベネフィシャリーがゴーン氏(あるいは資産管理会社)であることは考えにくい。合理的に考えれば、ベネフィシャリーが「日産」でなければ、この取引は成立しないのだ。こう想定すると、ゴーン氏が短期間だけ自己負債を日産に付け替えた動機は「ベネフィシャリーを日産にするため」だったのではないか……ということが、自動的に導き出される。

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取締役会で承認されなかったもののゴーン氏が、日産に指示してジュファリ氏に30億円を融資するという計画は、この見返りではないかと報じられている。しかしSBL/Cの入手額は額面よりはるかに安いものなのだから、これが成功していれば、日産の被害額はもっと大きなものになっていただろう。

そして、この計画を承認しなかったということは、日産が09年の時点で、ゴーン氏の「怪しさ」を認識していた……ということも考えられるのではないか。

こうしてひも解いていけば、ゴーン氏が行ったことが単なる「特別背任」ではない可能性があることが理解できるだろう。ジュファリ氏が額面よりはるかに安い金額で入手した「SBL/C」をゴーン氏に差し入れ、ゴーン氏が日産の「名前と資金」を利用できるだけ利用し、最終的には決算権を持つ予算から1470万ドル(現在のレートで16億円)をジュファリ氏サイドに振り込む――こういう見方が成立するならば、それはマネーロンダリングの構造そのものだ。

これが、今回の容疑の本質は「日産」を利用にした「特別背任」という経済事件ではなく、国際金融を舞台にした「マネーロンダリングという金融犯罪の疑い」があり、特捜部はその線を狙っているのではないか……と私が分析する根拠である。

 

なぜこんなことが出来たのか

さて、資金移動の監視が厳しい現在の世界にあって、なぜゴーン氏はこのようなことができたのか。そこで重要になる鍵こそがジュファリ氏の存在だ。

サウジアラビアの中央銀行にあたる組織は通貨庁(SAMA)である。ただしSAMAは物価や金利を安定させる役割だけではなく、財務省の役割の一部も担っている。

サウジ国内で電気や通信インフラ整備事業などを行う複合企業の「E.A.ジュファリ・アンド・ブラザーズ」副会長で「実業家」とされるジュファリ氏だが、そのもう一つの肩書こそが「SAMA」の理事会メンバー。ゴーン氏の事件においては、監視する組織に力を持つ人間が、加担しているという構造ということになる。

日本では今回の報道で初めて知名度を得たジュファリ氏だが、石油の世界に生きていた私は、中東社会で彼の名を何度も耳にした。ジュファリ氏の関連会社が中東でベンツとフェラーリを販売した際、決済を地下銀行を通じて行った疑いを受けたが、本人の名前が表に出ることはなかった。しかし中東でジュファリ氏は「大物フィクサー」の一人と認識されている。

ゴーン氏はジュファリ氏への16億円提供について「現地の販売店のトラブル処理や、投資を呼び込むための王族へのロビー活動、王族や政府との面会の仲介を担ってもらっていた」と主張するが、これは過小評価だ。なぜなら、ジュファリ氏こそが「ロビーそのもの」だからだ。

私自身「SBL/C」を使った資金移転を行った経験がある。だが、日産ほどの巨大企業に資金を拠出させて、さらに大物フィクサーを介した経験はない。「ゴーン氏が私に相談してくれれば、もっとうまいやり方を提供できたのに……」というのが、現在の私の偽らざる気持ちである。