元経済ヤクザも驚愕「ゴーン事件、カネの流れから見えて来るもの」

私が違和感を抱いたのはここだった
猫組長(菅原潮) プロフィール

「信用状」とはなにか

まずは「信用状」から解説したい。

「信用状」を介した売買取引が恒常化している世界の代表が、私が関わっていた石油の世界だ。

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パイプラインがない国に、石油を安価に大量に運ぶ手段は船である。しかし、商品を輸送するまで時間がかかる上に、売買金額が大きい貿易取引には、特殊なリスクが存在する。輸入業者が輸出業者に前払いすれば、商品を入手できないリスクを輸入業者が負い、輸入業者が輸出業者に後払いをすれば輸出業者が代金を回収できないリスクを負うことになる。

こうしたリスクを回避するために貿易取引では「信用状」(L/C)取引が行われることがある。売買契約を結んだら、輸入業者が自分の地元銀行に「L/C」という証券を発行してもらい、その「L/C」を輸出業者の地元銀行に送ってもらう。

輸出業者の地元銀行は「L/C」が発行されたことを通知して、それを受けて輸出業者が商品を送るという仕組みだ。輸出入業者の地元にある銀行が「決算を保証する」ことで、貿易独自のリスクを回避して円滑に商取引を成立させるというものである。

「L/C」は通常、石油のような「物の取引」に利用される。だが、この信用状を「物」だけではなく、「金(カネ)」の取引などにも使えるようにしたものが「スタンドバイL/C(信用状)」(=SBL/C)だ。

物の取引において、「L/C」は1回の船積みの毎に発行しなければならないのだが、「SBL/C」は「1回の輸送に縛られない」という柔軟性がある。1回の取引に10回の輸送が必要になる時の決算には「SBL/C」を使った方が便利であることから、「SBL/C」は「物」の支払いにも使われるようになる。

「金の取引」の場合は、例えば日本の企業が海外に子会社を作り、現地銀行に10億円の融資を受けたい時、本社の取引銀行が10億円の「SBL/C」を発行し、子会社が融資を受けたい地元銀行に送れば融資が受けられるという仕組みである。

このように「SBL/C」は表の世界で普通に利用されている一種の決算方法だ。

 

「信用状」を個人負債に使う異常性

しかしこと今回の事件においては、この「SBL/C」の利用方法に関して、疑義が生まれる。

確かに「SBL/C」は通常の「L/C」より自由度が高い。だが、「物」の輸送について使用する際には、出荷証明書や品目などの書類を、会社間の取引においては登記簿などの書類を付帯させなければならない。

単刀直入にいうと、個人の負債額の担保に「SBL/C」を使用すること自体が異常なのだ。ここに私が強い違和感を抱いたのだ。なぜ個人の負債額の担保に「SBL/C」が使われたのか、と。

ゴーン氏は「個人資産の管理会社」、ジュファリ氏は「自身の関連会社」と、表面上「会社間」を取り繕っているから、「SBL/C」を使用するのはおかしくない……という言い分はかなり苦しいことになるだろう。というのは、ゴーン氏と取引関係にあった新生銀行は、渡されたものが「ゴーン氏の個人資産」の評価損への担保であることを知っているはずだからだ。

こんなことが認められるのなら、個人資産は海外に移転し放題になるし、脱税や犯罪資金・テロ資金のマネーロンダリングも自由にできることになる(こうした「異常なこと」を恒常的に行っている人々がいる。それこそが犯罪組織やテロ組織を含めた「黒い経済人」たちだ)。

アメリカ同時多発テロ事件後の世界では、犯罪資金やテロ資金根絶を目的に、国際間の金融移動が厳しくチェックされている。各銀行は海外送金について厳しい審査基準を設けるよう、各国の監督省庁が徹底的に指導している。そこで銀行は海外からの送金を精査する「コンプライアンス部門」の他に、「トランザクション(取引)部門」を設けてニ重のチェック体制をとっている。

国際間の金融取引に詳しい知人の金融庁関係者は一連の報道を見て、「よく新生さんは、この場面でSBL/Cを受け付けたな……」と驚きを隠さなかった。個人間の負債担保として「SBL/C」が使われたことに対する「異常性」について、新生銀行が見落としていたとしたら、それこそ問題と言えるだろう。