化学界史上最強の科学者は誰かご存じか?

有機化学の神様と呼ばれたウッドワード
佐藤 健太郎 プロフィール

ウッドワードはこの後も複雑な天然化合物の合成を次々と達成し、この分野を独走しました。20世紀後半の有機化学界は、ウッドワードの背中を追いかけることで発展していったといっても過言ではありません。中でも1973年のビタミンB12全合成(スイスのアルバート・エッシェンモーザーとの共同研究)は金字塔とされ、はるかに合成法が進歩した現在でも、2例目の全合成が現れていません。

これらの業績により、1965年にはノーベル化学賞を単独で受賞しています。また、フェロセンの構造決定もノーベル賞に値するものでした。

【写真】粉末状のフェロセン
【図】フェロセンの分子モデル
  ウッドワードが発見した有機化合物「フェロセン」。類似化合物がそれまで見られない画期的構造として化学界を騒然とさせた(上は粉末状のもの、下は分子モデル) photos by gettyimages

あと3年生きていれば、ノーベル化学賞3度受賞も

一方、ビタミンB12の全合成の途中で、ペリ環状反応と呼ばれる反応の選択性を説明する「ウッドワード=ホフマン則」を発見し、この功績によって共同研究者のロアルド・ホフマンは1981年のノーベル化学賞を受賞しています。あと数年ウッドワードが長生きしていれば、おそらくホフマンと共同受賞していたでしょうから、彼はノーベル賞を3回獲っていてもおかしくなかったわけです。

若い頃は毎日4時間以下の睡眠で働いていたこと、青色を愛し、ネクタイやスーツ、駐車場までが「ウッドワード・ブルー」と呼ばれる青色で統一されていたこと、講演の際には12色のチョークを駆使してため息が出るほど美しい構造式を描いたことなど、その天才ぶりを示すエピソードは数多く残されています。

しかし残念ながら、ウッドワードは長年のハードワークがたたったのか、1979年に62歳の若さで世を去っています。

晩年のウッドワードは、有機化合物で超伝導体を創り出すという、夢のような構想を持っていました。また、フラーレンやカーボンナノチューブ、グラフェンなどの構造も思いつき、合成のプランを立てていたといわれます。

ウッドワードはたった一人で化学の歴史を大きく変えてみせましたが、神様があと10年、いや数年の寿命を彼に与えていたら、現代の化学はさらに違ったものになっていたかもしれません。

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