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厚労省「不適切な統計調査」が意味する、霞が関・文系エリートの限界

数字を扱うセンスに難がある

問題の根源「統計職員」

厚生労働省が、賃金や労働時間を示す毎月勤労統計調査で「不適切な」調査を続けていたことが発覚した。

マスコミは「不適切」というが、筆者からみれば、統計法「違反の」調査である。前代未聞の不祥事であり、今国会でも大きな問題になるかもしれない。

そもそも筆者のように統計数字を使う者にとっては、この一件は許しがたい行為である。このコラムでも、厚労省の毎月勤労統計は何度か使ったことがある。この種の統計は、賃金の動向をみるには欠かせないものだ。

今回の「統計法違反」調査では、賃金水準が0.5%程度過小になっていたのだが、賃金伸び率などを使っていた筆者の分析には、幸いにも致命的な悪影響はなかった。過小水準でも、伸び率は正常水準と大きく変わらないからだ。

それでも、統計はすべての政策決定の前提であるので、今回のような不祥事はあってはならないことだ。そのうえで「なぜこんなことが起こったのか」という根本的な疑問があるので、今回は、統計問題を取り上げてみよう。

 

報道によれば、厚労省は2004年頃から、東京都で「全数調査」ではなく、「一部抽出」の調査を行ってきたようだ。

厚労省の毎月勤労統計において、従業員500人以上の事業所については「全数調査」がルールなのだが、2004年からは、東京都内約1400事業所のうち「3分の1だけ」を抽出していたという。

昨年3月に、都内分を全数調査に近づけるための復元処理をはじめたが、このことについても公表しなかった。6月には、東京都以外にも、神奈川県、愛知県、大阪府の3府県で抽出調査への変更を要請し、後に撤回している。

そして昨年12月に、総務省の統計委員会が厚労省の統計の不自然さを指摘し、それを受けて厚労省が「東京都で全数調査をしていなかった」と報告した。今年に入って1月8日、根本厚労大臣がこれまでの経緯を記者会見で公表した。その3日後の11日、この統計に基づいた雇用保険などで延べ1973万人、合計567億円の過小給付が起きていたと公表している。

18日には、追加給付、加算、対応事務費などで2019年度予算案を修正せざるを得なくなり、閣議決定をやり直した。かなり情けない事態だ。

この話を聞いて、2004年から「不適切な調査」が行われていたということに、筆者は思い当たる節があった。その当時、筆者は内閣府経済財政諮問会議特命室にいた。主に郵政民営化、政策金融改革、特別会計改革などを進めていたが、小泉純一郎政権が打ち出した「骨太の方針2004」の中では、統計も取り上げていた。

この「骨太2004」を見てみると、「国・地方で、時代の変化を反映した的確な情報把握と迅速な情報開示のため、農林水産統計などに偏った要員配置等を含めて、既存の統計を抜本的に見直す。一方、真に必要な分野を重点的に整備し、統計制度を充実させる」と書かれている(https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/cabinet/2004/0604kakugikettei.pdf)。

当時、このことについては吉川洋氏(東京大学大学院経済学研究科教授)が中心になって検討されていた。「骨太2004」が定められた後、内閣府には経済社会統計整備推進委員会(委員長は吉川氏)が設置され、統計整備に関する「司令塔」機能の強化のために、統計法制度を抜本的に見直すことが決定された。

その目指すところは、いわゆる省庁縦割りの統計機構の下で、各省が独自に統計調査を実施してきた状況から脱却し、統計行政の調整機能を強化することだった。

「骨太2004」に書かれているように、その当時は統計の作成に従事する統計職員数には省庁間に大きな偏りがあり、農水省だけが統計職員数が異様に多かった。そのうえ、省庁縦割りになっていたので、農水省では過剰でも、他省庁では統計職員の人手が足りないという状況だった。

本来であれば、統計は省庁横断的な業務であるため、各省庁がバラバラに組織を持つのではなく、一つの組織で各省庁の統計業務を一括してやる方が効率的だ。しかし、そうした改革は、各省庁の強力な反対を押し切らなければ実現できない。2004年は2000年に行われた省庁再編の直後であったために、各省の縦割りを正して横断的な組織を作ることなど、とてもできるような雰囲気ではなかった。

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