戦争の悲しみ、五輪の歓喜…天皇皇后両陛下「平成の歌」に込めた想い

平成最後の歌会始までの歴史
春日 真木子 プロフィール

今上天皇の御製には、人間天皇としてのお心を思わせるのがあります。たとえば平成19年の歌会始の御製です。お題は、「月」でした。

務め終へ歩み速めて帰るみち月の光は白く照らせり

昭和天皇は、昭和40年の歌会始(お題「鳥」)で、「国のつとめはたさむとゆく道のした堀にここだも鴨は群れたり」と詠まれました。「国のつとめ」と詠んでいらっしゃる。今上天皇のお歌は「務め終へ」になっている。まるで一般人の勤め人と見紛うよう。また、務めを終えて、急いで家へ帰って皇后と会おうとお思いになるから「歩み速めて」。実感が深く、このフレーズ活きていますね。

平成27年の歌会始は、お題が「本」でした。陛下の御製は、

夕やみのせまる田に入り稔りたる稲の根本に鎌をあてがふ

お題の「本」の字を「根本」に使われたのでした。そ の根本に、「鎌をあてがふ」。

普通なら「鎌に刈りたる」でしょう。「あてがふ」というのは、おやさしい。この御製を、私はとても、いいと思うのです。「祈り」から「願ひ」に、「国のつとめ」から「務め」に、それから「歩み」を「速め」たり、「鎌をあてがふ」というおやさしさ。歌会始が終わり、天皇陛下がお退きになるとき、ちょっと振り返って美智子皇后をご覧になって、近づくのをお待ちになってから退出されました。ああ、おやさしいなあと思いました。

 

戦没者や被災者に対する「想い」

美智子皇后の御歌のことも申し上げます。 皇后さまは、やはり国母、国の母としての見方をしていらっしゃると思います。お心が繊細です。戦没者に対しても、被災者に対しても、いつも鎮魂ということをお考えになっていらっしゃると、御歌をあらためて拝読して思います。それから日本の国の重責を背負っていらっしゃる陛下の御身を、いつもご案じになりながら君に寄り添っておられると思います。

さらに地球と宇宙にも目を向けられている御歌もあり、ダイナミックです。心を通して、刻々に変化する世界をお詠みになっていらっしゃる。時代や社会を詠みとめておられます。 平成七年の「植樹祭」(広島県)での御歌、

初夏(はつなつ)の光の中に苗木植うるこの子どもらに戦(いくさ)あらすな

「この子どもらに戦あらすな」。皇后さま御自らおっしゃっている。感動します。天皇さまへの御歌では、平成10年の「うららか」という歌、

ことなべて御身(おんみ)ひとつに負(お)ひ給ひうらら陽びのなか何(なに)思(おぼ)すらむ

こういう思いが常におありでいらっしゃるのだと思います。 戦争中にたくさんの人が身を投げたという、サイパンのバンザイクリフのことを詠まれた、平成17年の御歌があります。

いまはとて島果ての崖踏みけりしをみなの足裏(あうら)思へばかなし

足の裏は地面を離れ、海へ落ちてゆくのです。この御歌は、すごいと思います。「をみなの足裏(あうら)」に、どきんときます。