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脊柱管狭窄症が、「歩くだけ」でなぜ良くなったのか? 

「心療整形外科」を始めた医師が説く・後編

「心療整形外科」を始めた整形外科医による、腰痛克服の画期的な考え方。前編の「腰痛は『ウォーキング』で、なぜ良くなるのか?」に続いて今回は、脊柱管狭窄症と診断された80代の女性の例を紹介しましょう。なぜ彼女にも「ウォーキング」が効果的だったのかを、説明します。

脊柱管狭窄症でも「歩かなくてはダメなんです」

80代の女性のBさんは、数年前に夫に先立たれてから一人暮らしをしていました。元気な方で家事はすべて自分でしているほか、自宅に隣接する小さな畑で自分の食べる野菜を作り、それを同じ町に住む長男夫婦にもおすそ分けするのが楽しみでした。

ところが、しばらく前から腰痛を感じるようになり、徐々に両足にシビレが出てきて畑仕事に支障をきたすようになりました。

Bさんの長男が心配して、ある整形外科医院に連れて行って受診したところ、腰部脊柱管狭窄症と診断されました。そして「痛みやシビレが出るので無理に歩かないようにして、様子を見ましょう」と言われました。

脊柱管狭窄症は文字通り、腰の脊柱管が狭くなりそこを通る神経を圧迫して痛みを生じます。しばらく歩いていると、太ももからひざ下にかけてしびれ痛みがでてきて足が前に出なくなる。これが間欠跛行という脊柱管狭窄症に特徴的な症状です。

彼女は歩いてシビレが出ることに不安を感じるようになり、「無理して歩かないように」という医者の言うことを必要以上にきちんと守ってしまいました。

「無理のない範囲で歩く」ことすら減ってしまい、畑にも出なくなり部屋で引きこもりがちになり、そして徐々に元気がなくなってしまったのです。

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前の病院の診断はあっているのだろうか……、長男が心配して、Bさんを私のクリニックに連れてきました。

診察をすると、確かに脊柱管狭窄症でした。脊柱管を広げる手術があることも話しましたが、高齢だし気持ちも塞いでいてとても手術を受ける気になれない、ということでした。

私は、ここはむしろ前の医者の逆張りでいくべきだと考えて、「シビレや痛みが出るまで歩いてみてください!」と話しました。

シビレや痛みをこわがらずに、自分ができる範囲で歩いてみる。ただしシビレや痛みがでてきたら、そこでいったん休憩してもとにもどるか確かめるように提案したのです。

脊柱管狭窄症は、「歩いたらいけないのか?」というと決してそうではありません。むしろ「今日はどのくらい歩けたか」ということを、自分でモニターすることが重要なのです。

シビレや痛みを怖がって歩かなくなったら、次第に足の筋肉が弱ってきて本当に歩けなくなってしまいます。

Bさんと長男は「前の医者では『あまり歩くな』といわれていたんですよ。本当に大丈夫なんですか」と心配していたので、「歩いて出てきたシビレや痛みが休憩しても治らなったらクリニックに来てください。すぐに対処するから、安心して歩いてみてください」と言いました。

これから起こるかもしれないことを気に病むより、今日できていることが明日も同じくできるように、自分のからだをモニターして管理することが大切です。もちろん、注射や薬、体操指導の治療も並行して行いました。

2週間に1回の診察のたびに、ちゃんと歩いているかどうかを尋ねると、徐々に彼女は「少々痛くてしびれても歩いていいんだ」と考えるようになってくれました。

「Bさん、『歩いてもいい』ではなくて『歩かなくてはダメ』なんですよ」
私は歩くことの重要性をさらに強調しました。

最初はふさぎ込むことが多かったBさんでしたが、「歩いても大丈夫なんだ」と認識が変わってきて、やがて表情が少しずつ明るくなっていきました。

もちろん歩くとシビレが出るのですが、家のまわりも少しずつ歩けるようになり「今日は10分間だけ歩けた」と話してくれるようになりました。

腰の痛みが始まる前と比べると、畑でできる作業は制限されて活動量は少なくなりましたが、長男の助けを借りたりデイサービスを利用したりして、生活に張りを取り戻し、同時に笑顔も戻ってきました。

絶望から抜け出す

脊柱管狭窄症で間欠跛行が出るときは「歩いてはいけない」と思いこんでいる患者さんは多いのですが、それはまちがいです。

毎日、歩いてみてください。そしてどのくらいの距離でシビレや痛みがでてくるかよく観察することが大切です。

以前は300メートルでシビレが出ていたのに、最近は1キロメートル歩いてもシビレを感じない、ということであれば症状が良くなっているから続ければいいし、逆に、前は100メートル歩けていたのに、50メートルでしびれるようになってきた、というのなら、症状が進んでいるので、今後の治療を再検討しなければいけません。

加齢に伴って狭窄した脊柱管は、もとのように広がることはありません。しかし症状はいいときと悪いときと波があるのが普通で、ほとんど症状がなくなってしまうことだってあります。

「狭窄はかわらないのに、なぜ症状がよくなったり悪くなったりするの?」とよく聞かれます。狭窄がかわらなくても症状には波があります。

同じ程度の狭窄でも症状のない人もいれば、ある人もいるのです。そこにはまだ解明されていない神経や血行が関係するメカニズムがあるのでしょう。

Bさんは「脊柱管狭窄症だから無理して歩いてはダメだ」と医者に言われ、歩くのは絶対ダメだと、自分でも思い込んでいました。

しかしあまり細かいことを気にしないで「まずは歩いてみる」ことによって「もう一生、歩けないのか」という絶望から抜け出ることができたのです。