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ももクロはなぜ、CDシングル売上数より「ライブ」動員数が多いのか?

「アイドル業界 七不思議」のヒミツ
小島 和宏 プロフィール

無料でも集客できない「現実」を教える

それでも、ももクロを立ち上げるときに潤沢な資金があったとしたら、ひとつの理想像として常設の専用劇場というプランは検討されていたただろう。

 

ただ、そんな資金はなかった。

当時、スターダストプロモーションにはアイドルを本格的に売り出すような部署はなく、ももクロのデビュー自体が「お試し枠」のようなものだった。

立ち上げの時点では、1円も売り上げの見込みが立っていない。そんな部署になかなか資金は投下できない。

この段階ではいわば「地下アイドル」に近い存在であり、もし、初期段階での舵取りを誤っていたら、そのまま地下に埋もれてしまっても不思議ではなかった。

ここで活かされたのが「持たざる者」の逆転の発想だ。

金がないから、劇場は持てない。でも、定期的にお客さんの前で公演をやって、経験は積ませたい。

そのモヤモヤを解消する方法が、公園での路上ライブ。これなら会場費は1円もかからない。告知に関しても、当日、メンバーに自分たちの手でチラシを配らせて、まったく興味のない人たちにもアピールするようにした。

下手にアイドルの運営をしてきた経験があったら、すでに手元にあるマニュアルを基に大人たちが線路を敷いて、メンバーはその上を従順に走っていけば良かったのだろうが、運営サイドもアイドルを売り出すためのノウハウをまったく持ち合わせていなかった。

とはいえ、マネージャーの川上アキラをはじめとして、スタッフたちは芸能界の厳しさをこれまでの現場の経験で熟知している。

ならば、メンバーに集客の難しさを身をもって知ってもらったほうがいい。

無料のライブでアイドルがチラシを手渡ししているのに、基本、誰も興味は持ってくれないという「現実」。まだ子どもだったメンバーにとってそれは衝撃的な事実だったはずだが、それを知 っているかどうかはのちのち大きな差になってくる。

アイドルとしてブレイクするための近道は、すでに売れているアイドルグループのオーテディションを受け、新メンバーとして加入してしまうことである。

運が良ければ、東京ドームや横浜アリーナといった大舞台でお披露目され、なんの苦労もしないまま、テレビに出演し、雑誌のグラビアを飾り、国民的アイドルの一員 として広く認知されるようになる。

そのように、まったく下積みを経験しないでスターになってしまうことも可能なのが、ブームの時期に飛び込んでくる人間が享受できる特典。しかし、下積みを知らないまま成長していくのは、タレントとしても、人としても、危うい部分が非常に大きい。さらに言えば、周りからの見え方もまったく変わってくるのだ。

常識か、非常識か?

この『ももクロ非常識ビジネス学』を書いているときには、まったく想定していなかったのだが、2019年に入ってから、アイドル業界が思わぬ形で揺れに揺れている。

アイドル業界で、いかにももクロが「非常識」なやり方で10年間、最前線を突っ走ってこれたのかについて解説する一冊にしたつもりが、ここにきて「ももクロのやり方のほうが常識的だ」という観点で読んでいただける方が非常に多くなった。

じゃあ、ももクロのやり方が圧倒的に正しいか?と言われたら、それはまた別問題である。おそらく、大所帯のアイドルはももクロのやり方に適合しないし、逆もまた然りである。

握手会はやらない。あえてSNSに依存しない。メンバーの補充は行わない。儲からなくても赤字でなければいい。

たった4人のグループだから、これらの非常識な施策は実現可能だったし、とことんライブに注力することで独自の価値観を構築することができた。それは単純なように見えて、一冊の本を著さなければ説明できないほど、奥深い「哲学」なのである。