『ももクロ非常識ビジネス学』の巻頭より/©池田晶紀
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ももクロはなぜ、CDシングル売上数より「ライブ」動員数が多いのか?

「アイドル業界 七不思議」のヒミツ
昨年デビュー10周年を迎え、東京ドームでの記念ライブで8万人以上を動員した、ももいろクローバーZ。彼女たちを長年密着取材し『ももクロ非常識ビジネス学 アイドル界の常識を覆した47の哲学』(ワニブックス刊)も出版した記者、小島和宏さんは、ももクロの「非常識」なビジネス展開にはいつも驚かされていたという。本稿では、その非常識な「ライブ」戦略について解説していただいた。

なぜ、握手会をしないのか?

現在のアイドルビジネスの「常識」というより、もはや基本的な骨組みとして存在しているのが握手会だ。

CDを購入すると、メンバーと握手をする権利を得られる。ある意味、CDの「おまけ」なのだが、いつしか「握手会に参加するためにCDを購入する」というのが当たり前のことになってきた。

ももクロはこの握手会をやらない。

正確に言えば、過去はやっていたが、6年以上も前に完全に撤廃している。じつはこの「握手会をやらない」という決断は、なかなか難しく、他のアイドルグループはそう簡単には踏み切れない。詳しくは『ももクロ非常識ビジネス学』に書いたが、ざっくり説明すれば、CDセールスに多大な影響を与えるから。それを考えると、ももクロサイドの決断はアイドル業界的には、まさしく「非常識」なことになる。

 

ハッキリ言って、ももクロのCDはそんなに売れてはいない。いわゆる100万枚超えのミリオンヒットは1曲もないし、 10万枚に届かない枚数でセールスは推移している。

これまでの常識であれば、レコード会社からテコ入れのための施策として握手会をネジこまれるところだが、当然のことながらそういった動きもない。

それどころか、油断していると年に1枚しか新曲をリリースしないなどという年もある。実際、2013年は11月にようやく、その年はじめてとなるシングルが発表されている。それも「新曲を出さないと、紅白への連続出場が難しくなるのでは?」という声が挙がったから動き出したなどという逸話が残っているぐらい、のんびりとした話なのである。

握手会を定期的に開催しているとこうはいかない。

変な話、握手会のスケジュールを消化するために、3カ月に1枚のペースを守ってシングルをリリースするという、本末転倒な話が近年のアイドル業界ではむしろ「常識」となっているのだ。

ももクロは握手会の呪縛から解放されたことで、そういったしがらみからも脱却できた。それこそ「いい曲と出会えたら、シングルを出す」ぐらいのスタンスでいられるのは、大きな強みになっている。

CDは買わないけれど、ライブには行くファンの存在

そして、業界関係者が「七不思議」のひとつに数えるのが「ももクロはCDの売り上げが10 万枚にも満たないのに、どうしてライブではそれ以上の数を動員できるのか?」という謎である。

最近の例を挙げると、2017年の夏には東京・味の素スタジアムに2日間で10万902人を動員している。

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単純計算になるが「ももクロのCDは買わないけれど、コンサートには必ず行く」 というファン層が一定数、存在するということになるわけで、これはもう「謎」と言われても仕方がない。1枚1000円のCDは買わずに、1枚9000円を超えるコンサートチケットには惜しみなくお金を遣うという独特すぎる金銭感覚がももクロの周辺では「当たり前」になっているのだ。

なぜ、そうなったのか?

それはライブを最大の「商材」として売ってきたからである。

2011年あたりから、年間のライブスケジュールはほぼ固定されている。

春=ももクロ春の一大事
夏=ももクロ夏のバカ騒ぎ(『桃神祭』『MomocloMania』などもアリ)
冬=ももいろクリスマス

この年間3大ライブが活動の軸となっており、モノノフと称されるファンも「これだけは見ておきたい」とチケット争奪戦に決死の覚悟で参戦する。

こうやって季節ごとに恒例のライブを毎年開催することで、それぞれのライブのブランディングにも成功した。とにかく騒ぎたいファンは夏を優先し、じっくりとライブを楽しみたい人たちはクリスマスの夜を早くから空けておく。

ファン層が広がると、その観客のニーズもバラバラになっていくものだが、そうやって広がっていったニーズを多彩なライブ内容でしっかりとカバーしていることにもなっている。

結果、ライブの動員数だけでなく、ライブのDVDまでもシングルの売り上げ枚数を上回るという逆転現象が起きてしまう。それだけ「ももクロのライブは面白い!」 がファンの共通認識になっているということ。だからこそ、ライブを軸に据えた活動が可能になっているのだ。