日本社会を覆う「呪い」とは? ぼくりりが明かす活動終了の「真意」

「総括するならば、大敗を喫した」
柴 那典 プロフィール

破壊することはすごく楽しい

――傍から見た印象では、“天才”と褒めそやされて世に出て、アーティストとして活動をして、10代で同い年ができない体験を沢山したのが、ぼくのりりっくのぼうよみだと思うんです。

端的に言って、羨ましがる人は多くいると思う。その活動期間でも、呪いを受けているという意識は強まっていた、と。

それこそ、ぼくりりとしては、目標がなくて、音楽家として敗北し続けていたので。むしろ呪いは強まるばかりというか。なまじ一見良さそうなぶん、より強まるみたいなところはあったのかなと思います。

つまり、目標もなくふわふわしてやっているけれど、一般的に言われている幸せみたいなものはあるわけですよ。ということは「いずれ不幸になるだろう」みたいな感覚がなお強まっていく。そういう意味では、呪いは受け続けてましたね。

――アーティストだから、華々しい活動をしているから、お金があるからと言って、その呪いは解除できるものではない。

そうですね。つまり、失うことを恐れているわけじゃないですか。それは持っているものが増えていってもいつまでも解除されないんですね。

「預金が0円になったらどうしよう」とずっと思っている人にしたら、預金を1億に増やそうが10億に増やそうが怖いんですよ。なんでかっていうとゼロの状態を知らないから。

人間って未知のものに恐怖するじゃないですか。だから、一度それを経験してみようって非常に大きいですね。「中の人」的には。

――今まさにそうやって失う経験をしている最中であるという。

そうです。自分が積んできたものとか、自分を為してきたものを1回破壊するとどうなるのかってやっているのが今ですね。

――率直に、その渦中の感覚は、どうですか?

すっごく楽しいし、いい感じだなって。身体が軽いですね。

――そう言われて思ったんですが、個人的にはその感覚、わかるんです。20代の時に、それまで勤めていた出版社を辞めて独立した時の感覚に近いかもしれない。

それはなんでですか?

――やっぱり、すごく自由を感じたんですよね。これは出版業界の「あるある」なんですが、自分だけでなく、生気のない顔で雑誌編集者をやっていた人間が会社を辞めた後に見違えたように活き活きした表情になるのも沢山見てきたんですよ。それに近いというか。

そういう現象、ありそう(笑)。だと思います。

 

真正面から戦って、次は勝ちたい

――最初に「ぼくのりりっくのぼうよみは敗北した」って言ったわけですよね。その理由はビジョンもなく、ふわふわとやってきたことだと言った。

これって、ぼくのりりっくのぼうよみという個人だけの問題でもなく、アーティストならではの悩みというわけでもなく、いろんな人が思い当たるふしのあることだと思うんです。現代社会を生きるみんなが受けている呪いだということですね。

普遍的なことだと思いますね。これはアーティストというより、いわゆる普通のレールに乗って生きてきた人に刺さる話なのかもしれない。

つまり、僕は大学に入って会社に入るっていう既存の敷かれていたルートから脱却したんですけど、結局、そこからアーティストらしい雰囲気のある別のレールにガシャンって乗り替わっていただけだったんで。

それってつまり、どちらもレールの上を進んでいることには変わりないんですよね。京急と東横線みたいな感じで、どっちも電車なんですよ。一見「東横線乗ってるんだ。すごいな、俺なんかJRだよ」みたいな雰囲気になるんですけど、関係なくて。

なんであろうと、降りて自分で車を運転しなくちゃいけないわけなんですよ。そっちのほうが偉いというか、そっちのほうが楽しいんで。

――このインタビューの最初では「敗北」と言ってましたけれど、むしろ、ぼくのりりっくのぼうよみを辞職することは、すごくポジティブな決断だということですよね。

そうです。それによっていろんな人を救えるんじゃないかと思っている部分はすごくあります。

――今の段階で、活動終了の先にはどういうイメージを持っていますか。

そこに関しては未定なんですよね。本当に何もない。

――仮に次に何かをするとしたら、目標を設定して勝負したいっていう思いはありますか?

そうですね。今はブルーオーシャンを狙うような発想で考えちゃってることがすごく多くて。そういう弱者戦略ではなくて、自分のクリエイティブは戦えるんだから普通に戦ったらいいやんって、当たり前のことに今さら気付いたところはあって。

今回は状況が全然整っていなかったので、『没落』に関しては、僕を燃やし尽くすとか、葬式をするとか、そういう搦め手のようなことでなければ羽ばたけなかった作品だと思っているんです。それはそれでまた、誰にもできないことをしていると思うんですけど。

ただ、もっと真正面から戦うことをいずれはしたいなと思います。次は勝ちたいですね。

【リリース情報】
ラストアルバム『没落
&ベストアルバム『人間』、絶賛発売中!
【ライブ情報】
・葬式~前夜祭~:1月28日(月) 東京都 昭和女子大学人見記念講堂
・葬式:1月29日(火) 東京都 昭和女子大学人見記念講堂(ニコニコ生放送「ぼくのりりっくのぼうよみ ラストライブ『葬式』独占生中継」)