Photo by gettyimages

まもなく1ヵ月…米政府機関閉鎖が「フェイク・クライシス」な理由

トランプ大統領が演説で語ったこと

「家賃が払えない」「手術が受けられない」

もし、読者の皆さんがお住まいの地域にある市役所や区役所が、ある日突然機能しなくなったら――日々の暮らしにも、企業・団体の活動にも、大きな影響が出ることは間違いありません。しかし米国ではいま、そのような事態が起こっています。連邦政府機関の一部が、昨年12月22日から閉鎖を続けているのです。

きっかけは、ドナルド・トランプ米大統領の「公約の中の公約」である「米国・メキシコ国境沿いの壁」建設をめぐる問題です。トランプ大統領と議会民主党が壁の建設費で激しく対立し、予算案が成立せず、手詰まり状態になっています。大統領は「57億ドル(約6,160億円)以上の壁建設費が盛り込まれていない予算案には署名をしない」と突っぱねるように述べました。

政府機関の閉鎖は、これまでの最長記録である21日を超え、間もなく1ヵ月を迎えようとしています。過去には、クリントン政権下で2回にわたり合計26日間、連邦政府が閉鎖に追い込まれています。トランプ政権はその記録も大きく更新し、国民生活への影響がさまざまなところに出ています。

ワシントンで、政府機関閉鎖に対する抗議運動に加わった人々(Photo by gettyimages)

米メディアの報じるところでは、約42万人の政府職員が無給で仕事を続けており、約35万人が自宅待機を余儀なくさせられています。中には、電気・ガス・水道料金の支払いのために食費を切り詰めている職員も少なくないといいます。ワシントンでは政府職員を対象に、無料で食事を支給するレストランも登場しました。

さらに、給料支払い小切手が送付されず、受ける予定だった手術の日程を延期せざるを得なかった政府職員や、通っている大学院の授業料を払えず、単位が取得できるか不安がっている職員もいるそうです。

米公共放送のインタビューで、ある職員は「家賃を払えず、家を手放さなければならないかもしれない」と語り、懸念を示していました。「結婚届が提出できない」と嘆くカップルもいます。昨年のクリスマスには、購入したクリスマスプレゼントを現金に換金した政府職員もいたといいます。

今年に入って初めての給料支払い日である1月11日には、なんとトランプ大統領の警護隊や、メキシコからの不法移民を取り締まる税関・国境取締局(CBP:Customs and Border Protection)の職員に対する給与支払いまで滞り、同局の職員が所属する組合が、とうとうトランプ政権に対して訴訟を起こしました。

「政府機関が閉鎖する」という経験のない日本人から見れば、まさに想像を絶する状況です。

 

年頭、明らかな「嘘」を語った

トランプ大統領は8日(現地時間)、国境の壁建設の必要性と緊急性について、ホワイトハウスの大統領執務室から就任以来初となるテレビ演説を行いました。約9分30秒の演説の中で、大統領は「危機」という言葉を6回繰り返し、そのうち4回を冒頭の約2分間までに使っています。「国境が危ない」と国民に強く印象付けるためだけに行われた演説だった、と言えるでしょう。

演説の中身は、「統計」と「ストーリーテリング(物語)」の2本柱だったと分析できます。

まずトランプ大統領は、メキシコとの国境を越えて米国に入ってくるヘロイン、コカイン、フェンタニルといった薬物による死者数や、過去2年間において移民・関税執行局(ICE: Immigration and Customs Enforcement)によって逮捕された犯罪歴のある不法移民の数を紹介しました。

それから、カリフォルニア州で不法移民によって殺害された元空軍の退役軍人や、南部メリーランド州で「MS-13」と呼ばれる中米出身のギャング集団によって刺殺された16歳の少女について、ストーリー仕立てで語り、恐怖心を煽ったのです。

しかし案の定、トランプ大統領が演説で用いた統計については、正確でないとの指摘が出ています。特に「90%のヘロインが(メキシコとの)南部国境を経由して米国に入ってくる」というのは明らかな誤情報で、大抵のヘロインは空港や港から入っているというのです。