歴史のプロが語る「断片ではない『大局としての世界史』を学ぶ意味」

文庫版『興亡の世界史』が完結!
青柳 正規 プロフィール

人類が共有すべき「知の体系」とは

──そこで歴史が教える指針に価値が出てくるわけですが、最近は歴史に興味をもつ人が増えているようです。

それはもちろん結構なことですが、ただ最近気になるのはテレビのバラエティやクイズ番組にみられるように、歴史がエンターテインメント化していることです。NHKの大河ドラマもそうですが、英雄モノのヒストリーや歴史薀蓄の断片情報ばかりで、歴史の大局を伝えるものがない。

極小ヒストリーをいくら集めても、ウズラの卵がダチョウの卵にならないのと同じで歴史の大局はわかりません。歴史番組ひとつとっても、残念ながらこのままでは、日本人の知的レベルは、どんどん低下してしまうのは明らかですね。

 

──なぜそのようになったとお考えですか。

社会的にも、また、現在の政権をみてもそうなのですが、知的なるものを評価し、その価値を尊重することがなくなってきたでしょう。でも、歴史学でも考古学でも、昔から学問には系譜学的規制とでも呼ぶべきものがあります。

つまり、自分たちの前の代までにどれだけのことが明らかになったかを知り、それをまず学ぶ。そのうえで新たなテーマを設定して、それを解明していく

学問というのは、そういうふうに系譜を踏まえてなすべきもので、アイデアひとつでポンと何かが生まれるというものではありません。

じつはその学問における系譜というものは、人類が安心して共有できる知の体系なんですね。こうした系譜学的な体系性は、現在のような先行き不安な時代にこそ、尊重し共有すべきでしょう。

もちろん、そのときどきで新しい思想や学問分野が生まれます。かつてフランスで生まれた構造主義とか、地域研究とか、最近ではデジタルヒューマニティーズとか、学問の世界にもつねに新しいものが生まれていますが、それらの幹には系譜学的な継続性が一貫して存在するということです。

そこをおろそかにしてはいけない。人類がたどってきた歴史を知ることは、幹である知の体系にふれることにほかなりません。