父に捨てられ、大金まで騙し取られた息子の「胸のうち」

育てられない母親たち㉚
身体的な虐待、育児放棄、DVによる心理的な虐待……。親が様々な問題を抱えて、子供の養育を放棄するというニュースは頻繁に見受けられる。

こうした子供たちは児童福祉という名のセーフティーネットにかかり、多くの場合そこで生活をしていく。児童養護施設や里親のもとで暮らす子供たちがそれだ。

施設で暮らす子供たちの胸のうちは、なかなか表には出てこない。法律で子供たちのプライバシーは固く守られているし、まわりもムリに聞こうとはしない。子供たち自身も幼かったり、恥ずかしかったりで、なかなか感情を言葉にすることができないのだ。

しかし、施設に入ったとしても、子供たちは常に「親」という呪縛から逃れることができずにいることが多い。しかも、それは施設を出た後もつづく。

今回は、児童養護施設で暮らしていた一人の男の子の人生から、親と子の在り方について考えてみたい。
 

母親は弟だけを引き取った

大西誠(仮名、以下登場人物はすべて仮名)は長男として生まれた。やがて2歳下の弟もできた。

誠は幼い頃から走り回って騒がしい子だったが、弟の方は病弱で物静かな性格だった。親戚からも性格が真逆だとよく言われていた。

両親は、誠が物心ついた時から仲がよくなかった。リサイクル業を営む父親は、毎晩飲み歩いてほとんど家に帰ってこなかった。たまに家にいたと思ったら、すぐに妻とケンカになって暴れて家じゅうのものを壊した。

〔PHOTO〕iStock

誠が小学3年生の頃、突然、母親が家からいなくなった。おそらく父親との関係がこじれて、家を出たのだろう。

やがて母方の親戚がやってきて、離婚することが決まった。誠はてっきり、自分と弟は母親のもとに引き取られるのだろうと思っていた。だが、母親は弟だけをつれていき、誠は父親に引き取られることになった。

この時の驚きを誠はこう表現する。

「母さんに裏切られたと思いました。たぶん、俺が騒がしくしてたから、おとなしい弟をかわいがって引き取ったんだなって。前に母さんから『あんたはお父さんみたいになる』って言われたことがあったんです。たぶん、母さんは俺を親父と同じみたいに思って憎んでたんじゃないですかね。

捨てられたと思った時はショックだったけど、なんかムカつくし、もういいやって感じでした。それ以来、母さんには会ってません」

母親が弟だけを引き取った理由はわからなかったが、その戸惑いは母親への怒りとなった。

父親の恋人に「他人のくせに」

離婚後も、父親の酒癖の悪さは治らなかった。誠は父親を恐れて、余計な怒りを買わないように気を遣って生活をしなければならなかった。食器を洗っていない、トイレットペーパーがないというだけで殴られることがあったからだ。

やがて父親は、恋人の女性を家につれ込むようになった。最初の女性は近所の家から通ってきていたが、次に付き合った30代の女性は家に同居するようになった。

誠は女性たちが家にやってきて母親のような物言いで接してくることが我慢ならなかった。母親に捨てられたことで一人で生きていく覚悟を決めていた。それなのに、見知らぬ女性が家にやってきて、あれこれ文句をつけてくることが腹立たしかったのだ。彼は女性とぶつかる度に、「他人のくせに」と悪態をついていた。

小学6年生になった頃から、誠はだんだんと父親への反感を示すようになる。力では父親には勝てないので、恋人の女性に対して口答えしたり、物を投げたりした。当然、誠の言動は、女性を通して父親につたわる。父親はそれを知るや否や激怒して、誠が立てなくなるまで殴った。