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元児童相談所職員が明かす「虐待を受けた子と親の再統合の難しさ」

育てられない母親たち㉗
石井 光太 プロフィール

親の8割が面会の約束をすっぽかす

とはいえ、施設から自宅に帰ることのできる子供は、わずかだがいる。施設はそんな親子をどのように「再統合」させているのか。

これは主に児童相談所の「家族支援」というチームが中心になって施設も協力して行われる。

まず親がきちんと約束を守ることができるかどうかが第一歩だ。

8割方の親が何時何分に面会に来ると約束しても、連絡さえせずにすっぽかす。親自身が人との約束を守るという常識を持ちあわせてないケースが多いのだ。こういう親は対象から外され、きちんと約束を守った親だけが次のステップへ進めることになる。

次は子供たちとの面会だ。定期的に行われるが、多くの親たちは子供との接し方がわからない。だから、児相や施設の職員が遊び方から生活の仕方、それに言葉の伝え方など親としての振舞い方を教える。

〔PHOTO〕iStock

講座のようなものではなく、一緒にシャボン玉で遊ばせたり、食事をしたりといった簡単なことばかりだ。ほとんどの親はゴミ屋敷の中で暮らしていて、こういう最低限の社会生活さえ営めない場合が多い。

こういうことに慣れてくると、だんだんと外出をさせたり、外泊をさせたりする。その都度、親子にはふり返りをさせ、何ができて何ができなかったかを明らかにして修正をしていく。そうしたことを一年以上かけて行い、この親子であれば大丈夫だと判断されれば、晴れて自宅に帰れることになる。

しかし、現実にはこうしたことができる親はごく一部だ。梶尾は言う。

「家に帰ることのできる子はわずかなので、私たちはあえてそこに目標を設定してはいません。家に帰れなくても親子の関係を修復できるかどうか、どうしようもない親であればきちんと距離をとって生きていけるかです。その上で、きちんと自立して税金を払って生きていける大人になってほしい。それが施設の職員が抱いている目標です」

 

とはいえ、子供たちが負った心の傷は大きい。

卒業生50人中、25歳~30歳の間できちんと納税して生きている人の割合は数人しかいないそうだ。残りの8割から9割は、水商売や日雇い労働を転々としながら流れていって行方がわからなくなってしまうという。

「社会に出た後の子供たちを見ていると、やはり虐待されたことの影響の大きさを考えてしまいます。よい対人関係を築くことができないんです。ただ、施設を卒業したら、彼らから来てくれないかぎり、私たちが何かをすることはできません。非常にもどかしいですが、制度上やむをえない面があるのと、私も目の前にいる施設の子に向き合わなければならないからです」

子供たちがかかえる問題は、時として子供たちが親になった時に虐待の連鎖という形で現われることがある。そのような負の連鎖を断ち切るためには、傷を負ったまま社会へ出て行かされる彼らを何かしらの形でサポートする仕組みが、今以上に必要だろう。

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