『ラヴレター』から24年、岩井俊二がたどり着いた「答え」

広瀬すず出演『Last Letter』今年公開
岩井 俊二

所作の美しさを印象づけたかった

――恋人の過去の住所に手紙を送るという展開は『ラヴレター』を彷彿させます。

『ラヴレター』は、主人公の女性が亡くなった恋人にあてた手紙を、恋人と同姓同名の女性が読んで返事を書く、という流れでしたが、本作において、鏡史郎が出した手紙を読むのは亡くなった未咲の娘・鮎美です。

『ラヴレター』では、思春期の思い出と現在の物語に焦点を絞り、あまり人生の闇のような部分は出て来ませんでしたが、そこがポイントでもあったわけです。あの当時、僕がいちばんやりたかったのは、悪い人が一切出てこない「少女漫画的な世界」を創ることでした。それで映画になり得るのかという実験を試みたのです。

――一方の今作では、人生の暗部のような闇のシーケンスが後半に登場します。それは『ラヴレター』には出て来なかったもので、今回僕が描きたい焦点のひとつだったかもしれません。

夢を追い続けることの功罪や挫折といった部分に、自分の関心が引き寄せられていた気がします。

作家を目指したある男の挫折と再生の物語、人生というスケールで受け継がれて行く何かを目撃する物語――。そういったものを目指したように思います。

 

――両作でもうひとつ大きく異なる点が、手紙の形式です。『ラヴレター』に出てくる手紙はワープロで綴られていたのに対し、今作では手書きになっていますね。

『ラヴレター』の頃は、今と違って手書きで手紙を書く人がまだたくさんいたので、あえてワープロで書くという設定にしてひとひねりを加えました。ところが、今ではすっかり手紙を書くという光景を見かけなくなってしまった。

フェルメールの有名な絵画のように、人が手紙をしたためる姿って、本来すごく絵になるんですよね。スマホの画面上で指を滑らせている姿よりもずっと味がある。だから、手書きのシーンをあえて挿入することで、その所作の美しさを印象づけたかったんです。

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手紙を書く姿に限らず、技術の進歩にともなって人の振る舞いが変わっていって、かつて当たり前のように目にした動作はどんどん失われています。

でも、楽曲のダウンロードが全盛の時代において生演奏を聴くことの価値が再評価されてきているのと同じように、手書きの手紙の価値もどこかできっと、見直されると思っています。

――映画の『Last Letter』は2020年に公開予定です。

僕がいつも考えているのは、「映画は映画、小説は小説」ということです。

同じストーリーといえども、映像で描いたものをただ文字で描写しても仕方がないし、逆もまた然り。「双子のそれぞれの人生」みたいな距離感を持たせないといけないと思っています。

そういう意味で、「読後感」は映画と小説で異なるはずなので、それぞれの良さを味わっていただけたらうれしいですね。

(取材・文/タカザワケンジ)

『週刊現代』2019年2月2日号より