――岩井さんの新著『ラストレター』は、新作映画『Last Letter』の原作として刊行されたものです。
映画に先駆けて小説を書くというのは、1995年の大ヒット映画『Love Letter』のときにも取られた手法ですね。
一昨年、韓国で『チャンオクの手紙』という、手紙が物語の鍵となるショートフィルムを撮ったとき、脚本を書いていて面白かったので、もうちょっと膨らまそうと思ったのが今回の作品のきっかけでした。
メールやSNSが全盛の現代において、あえて手紙を中心にした物語、手紙の交流の物語を作ることを考えているうちに、かつて自分が書いた『ラヴレター』のこともおのずと意識するようになりました。
――売れない作家の主人公・乙坂鏡史郎は、中学校の同窓会に、昔の恋人・未咲に会えるという期待を持って参加します。ところが、そこに現れたのは未咲の妹の裕里。
未咲はすでに亡くなっていて、裕里はその事実を伝えるために会場に赴いたものの、同級生たちはそのことに気づかず、裕里を未咲だと思い込みます。
「同級生のことがわからないなんてあり得るのか」と思われるかもしれませんが、僕自身、同窓会に出たときに、「久しぶり」と会話を交わしても、相手が誰なのかを思い出せないことが何度もありました(笑)。
そんな感じで人の記憶なんて本当に曖昧なものだから、もし誰かが勘違いしたまま言い出してしまえば、周囲も間違って思い込むということは、十分あり得ると思うんです。
――鏡史郎だけは入れ替わりに気がつきますが、そのことを告げず、あとで「君にまだずっと恋してるって言ったら信じますか?」とメールを送ります。
実は、裕里にとって鏡史郎は初恋の人。胸のときめきを抑えられず、姉の死を伝えられないままに、鏡史郎とメールのやりとりを続けます。
岩井さんの作品のなかでは、こうした小さな「嘘」が効果的に使われることが多いですよね。
実際、嘘を描くのは好きかもしれません。いかに憎めなくて、微笑ましい嘘にするかを考えている時はとても楽しいです。
とはいえ、いつまでもメールのやり取りだけでは、手紙を登場させることができません。
そこで、裕里と鏡史郎が連絡を取っていることを知った裕里の夫が、浮気を疑ってスマホを壊すというシーンを考えました。こうして突然、連絡手段が失われたことで、鏡史郎は未咲の過去の住所をたどり、手紙を出すことを思い立ちます。