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意識高い系の「年収1000万円」社員ほど使い捨てられるワケ

日本の製造業の凋落原因もこれだった
鈴木 貴博 プロフィール

エンジニアからの搾取が招いた日本の製造業の凋落

1980年代に世界最強と言われた日本の製造業は、21世紀に入ってからは見る影もないほどに地盤沈下を起こしました。特にすっかり世界から置いていかれてしまったのがエレクトロニクス産業です。

パナソニック、シャープ、東芝、ソニーといった日本のエレクトロニクス産業が競争力を失った原因は、アメリカや中国のライバルにインターネットやITの技術力で抜かれ、また台湾や韓国のライバルに製造の生産性で抜かれたためです。

しかしそうなったより一段深い要因は、エンジニアからの搾取にあります。

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日本の電機メーカーは、1980年代以降の円高に対応するために、徹底的なコストカットをおこなうことで生き残りを図りました。今でもそうですが日本メーカーの従業員の給与水準は、銀行や商社と比べて低く設定されています。そのためメーカーへの就職は理系学生には不人気で、優秀な学生はもっと給料の高い企業を目指すようになりました。メーカーに就職した有望なエンジニアは工場や研究所で搾取されながら、それが当たり前だと思いながら仕事をしていきました。

ところがこの時期、世界を変えていったのはエンジニア出身の若きビジョナリーたちでした。ビル・ゲイツ、スティーブ・ジョブズ、ラリー・ペイジ、セルゲイ・ブリン、マーク・ザッカーバーグらがその代表格です。

 

彼らのような(少なくとも当時は)若いエンジニアは、エレクトロニクス企業の経営をリードするにおいては非常に大きい利点があります。それは技術を武器に世の中の仕組みをどのように変えることができるのかを、深いところまで理解できているという点です。

アメリカのIT企業はそのことを理解したうえで、若いエンジニアたちを、年収1000万円を超える高給で雇い、より上位の経営に携わるポジションへと就けていきました。韓国のサムスンも米国企業にならって同じ人事戦略を採用していました。

オジサン上司の都合で評価を抑え込む

ところが、日本企業はそういった若い才能をただ平社員として搾取するだけで、この重要な20年間を過ごしてしまいました。20代の社員を優遇して40代の上司よりも待遇を上にするような人事政策はとれなかった。むしろ40代の上司が気持ちよく働けるように「君たちエンジニアは専門的な実力はあっても、経営や組織の管理はまったくわかっていない」という評価で抑え込むことに熱心で、彼らのポテンシャルを引き上げるような人事政策はとらなかったのです。

唯一の例外がソニーで、エンジニアの中でもトップランクの実力を持った久夛良木健氏にプレイステーション事業のすべてを任せ、2000年代には副社長として会社の経営を任せました。しかしソニーも久夛良木氏が更迭されて以降、下降線を辿ることになります。

ITエンジニアが労働者の立場で、頑張って年収1000万円で活躍をしている場合でも、会社はそれをはるかに上回る金額を稼がせてもらっているものです。労働者はいくら高給取りになったとしても、所詮は富の食物連鎖のピラミッドの真ん中までしか上がることはできないのです。

そのことを考えると日本のエレクトロニクスメーカーは、搾取に関する戦略を根本の部分で間違えたのだと思います。優秀な若手エンジニアに高給と高いポジションを与え、彼らに新しい価値を存分に生み出させたうえで搾取すべきだったのです。

搾取が下手な企業は21世紀の経済では凋落するというのが、冷徹な現代の資本主義ルールです。日本メーカーの凋落は、このように搾取という一面からも説明ができることなのです。