世の経済書や啓蒙書では「社員にいかに幸せに働いてもらうかが経営者にとって重要だ」と書かれた本が氾濫しています。ミクロで言えば、従業員の満足を高めた会社が成功している例はいくつもあります。
しかし一方でグローバル企業の成功者を見てみましょう。アマゾンの成功は、アマゾンの倉庫で働く従業員の高い生産性と低いコストが優位性となっています。アップル製品は、中国でiPhoneの生産を受託しているフォックスコンが非常に低い製造コストで製品を作っていることで競争力が生まれています。マクドナルドやウォルマートは、給与水準の低いパート従業員をITで戦力化していることで成長しています。
ウォルマートの創業者のサム・ウォルトンは「従業員に億万長者が何百人も生まれた」と自慢していましたが、その理由は、初期の従業員がウォルマートの持ち株のおかげで資本家として億万長者になったことでした。ウォルマートの店員が給料を貯金箱に貯めていたら、いつのまにか億万長者になったなどということは起きていません。
重要なことは、資本主義経済のもとグローバル経済で成功する企業の大多数は、「競争があるため」という大義を掲げたうえで、人件費を低く抑えることで成功しているということです。
なぜ、従業員に利益を還元する企業のほうが少数派なのでしょう。従業員が1時間に4000円稼いだなら、会社はほんの一部だけを取って、大半は従業員に返そうという考えがなぜ成り立たないのでしょう。
資本主義経済下では、アダム・スミスが述べたように人々が強欲のままにビジネスを展開する中で、需要と供給をもとにした神の手によってぴたりと経済に最適な価格水準が決まり、結果として経済が発展していきます。ミクロでは個々人の強欲がうずまいていても、マクロで見るとそのやり方のほうが経済が一番成長して最大多数が幸福になれるというのが、この神の手理論のおもしろいところです。
実は私たちの給与もこの神の手によって基本水準が決まります。実際は法律によって最低賃金が決まっているので、神の手はそれよりも下には下がらないのですが、いずれにしても給与の高い人、高い仕事と、給与の低い人、低い仕事の水準は需要と供給のバランスで決まります。