地に堕ちた栄光…在仏30年の女性ジャーナリストが見るゴーンの悲劇

国家にも、ルノーにも見捨てられ…
山口 昌子 プロフィール

マクロンに救済の余裕はない

実は、ゴーンの高額所得を最初に問題にしたのも経済相時代のマクロンだった。

ゴーンの2015年のルノーの報酬約725万ユーロ(約8億9000万円)――日産の報酬に比較すると、何と少額だったことか――は、役員会では承認されたが、株主総会では54%の株主が、「高すぎる」と反対した。

株主の意見は単なる勧告で法的拘束力はないが、時の経済相マクロンが、「高すぎる」と、警告したことで、ゴーンの報酬問題は政治問題になった。

ルノーは元来、国営企業で、90年代半ばにやっと民営化されたが、当時の政府の株式所有は19・7%だった(現在も15%所有)。

国民議会(下院)でも早速、「ゴーン問題」が取り上げられ、答弁に立ったマクロンは、「もし、役員会でゴーン社長の報酬をこのまま維持するため、法律を制定する」と述べ、株主総会の意見の効力化や役員会での再検討を義務つけると表明した。

ただ、国家元首となったマクロンの立場は経済相時代とはおのずから異なる。

個人的関係とは無関係に、ゴーン救済の義務があるわけだが、マクロンにその余裕がないのが現状だ。ますます過激度を増す「黄色いベスト」問題で頭がいっぱいだからだ。

新年を迎えて支持率が数%上向いたものの、20%台を脱出できず、低支持率にあえいでいる。慣例の各団体との賀状交換会も、軍事関係者以外は中止を決めた。異例の措置だ。

一方、ルノーはトップの人選に入った。No.2だったティエリ・ボロレを代理社長に任命したが、カリスマ経営者ゴーンに代わる技量はない。このまま留任させるか、あるいは強力なトップを据えるかの判断を迫られている。

有力候補としてはゴーンの出身会社、タイヤ大手のミシュランの重役を昨年5月に辞任したジャン=ドニミック・スナールやトヨタの現No.2のディディエ・ルロワの名が挙がっている。

カリスマ経営者の慢心

国家にもルノーにも見捨てられそうな可哀そうなゴーンの運命はどうなるのか。

最後にインタビューした2003年7月、日本での過熱ぎみのゴーン・ブームが気がかりだったので、「日本ではアラン・ドロンに次ぐ、有名人ですね」と、ちょっと意地悪な質問を試みたが、ゴーンがあっさり、こう回答したのでショックを受けた。

「アラン・ドロンは年をとりましたが、私はまだ当分、現役ですから、私の方が一番になる機会は十分にあると思いますよ」と笑いながらだったが、即答したからだ。

カリスマ経営者としてもて囃され、「自分は何をしても許される」と、いい気になっていたとしたら、あるいは日本のメディアにも責任があるかもしれない、と自戒している。

ゴーンが05年にルイ・シュバイツアーの後任としてルノーのトップに就任した直後の株主総会の時、檀上のゴーンを見たのが、直接接した最後になったが、この時、ゴーンが珍しく緊張していたのも思い出す。

用意したテキストを読みながら、「ルノーがフランスの代表的企業」であること、「フランス」が偉大な国であることを強調していた。

その時、ゴーンはやはり、自分が 「外国人」であること、それも旧植民地出身の「レバノン人」であることに、こだわっているのかもしれないと思った。

ゴーンの光と影はそのまま、フランス共和国の光と影を映し出しているようにもみえる。(敬称略)