地に堕ちた栄光…在仏30年の女性ジャーナリストが見るゴーンの悲劇

国家にも、ルノーにも見捨てられ…
山口 昌子 プロフィール

「フェニキア商人」ゴーン

こうしたゴーンの金銭面での様々な実態が明らかになるにつれ、フランス人の間では、ひそかに、「さすが、フェニキア商人ゴーンだ」との囁きも聞かれる。

人種差別はもとより、あらゆる差別を刑法で明確に禁止している「自由、平等、博愛」の国フランスでは、口が裂けても公に発言する人はいないが、ゴーンには、紀元前に地中海全域を制覇し、海上貿易で活躍したフェニキア人の血が流れているとの指摘だ。

フェニキア商人は事業の感覚に優れていただけではなく、特に、金融関係で抜群の能力を発揮したとされ、「ロスチャイルドやロックフェラー以上」との評判がある。言い換えれば、金銭に関して、かなり貪欲である、ということだ。

ゴーンは東京地裁での人定尋問で、「カルロス・ゴーン・ビシャラ」と祖父のレバノンの苗字を入れた正式な本名を名乗った。フランス・レバノン・ブラジルの三重国籍を持つからだ。

両親はレバノン人で、ブラジル生まれ。高校時代からフランスに留学し、理工科系の最優秀校、理工科学校(ポリテクニック)と同校の上位数人が進学を許可される高等鉱山学校(MINE)卒。容易に仏国籍も取得した。東京地裁には、「自国人の保護」という名目で、駐日フランス大使、レバノン大使、ブラジルの外交官が出席した。

レバノン人のゴーンの祖父は若くしてブラジルに渡り、食品会社などを手広く経営した成功者だ。ゴーンの父親も事業を継いでいる。

ゴーンが2歳の時、病気になったので、心配したレバノン出身の母親が6歳の時、ゴーンを連れてベイルートに引き上げた。レバノンは旧フランスの植民地なので、富裕階級の伝統に従って、仏系のカトリックの学校にゴーンを入れた。

ゴーンはフランスに留学した当初は、高等商業専門学校(HEC)を目指していた。「事業で成功した従兄が卒業したから」と以前、インタビューした時、打ち明けた。HECもエリート校だが、理数科系の成績が抜群だったので、教師がポリテクニックを勧めたのだとも、言っていた。

要するにゴーンにはフェニキア商人の血が脈々と流れているわけだ。

ただ、フランスの場合、富裕税の存在もあり、高額所得者が外国に居住地を移住している場合が多く、違法ではない。

ユーロネクストパリ市場(欧州連合=EU全体の株式市場)に上場の仏企業の時価総額上位40社(CAC40)のうち、3分の1近くの企業のトップが税金の申告地を外国に移住させているとの情報もある。

高額所得者やサッカー選手や人気俳優、歌手らもご多分に漏れないので、ゴーンのオランダ申告が判明した時点で、「フランス人はフランスで税金を納めるべし」と、ルメール経済相が改めて発言したほどだ。

マクロン大統領との微妙な関係

目下、ゴーンの救世主は、国民国家フランス共和国の国家元首マクロン大統領の裁量にかかっている。

国民国家とは、国家と国民は無数の契約で結ばれているという考え方だ。別の言い方をすれば、国家は国民一人一人を保護する義務があるということだ。とりわけ、外国で自国民が窮地に陥った時は、国家が救済するべきだとの考え方だ。

そのうえ、いったん緩急あれば、「三色旗」と国歌「ラ・マルセイエーズ」のもとに結束する強烈な中央集権国家だ。

例えば、フランス人ジャーナリストがテロ集団の人質になれば、あらゆる外交ルートを駆使して救済に当たる。人質が解放されれば、現地まで外相が駆け付け、到着の空港には国家元首の大統領が出迎える。

国民の方も、いざという時は国家が助けてくれると考えている。「黄色いベスト」の参加者が、三色旗を振りながらデモを展開するのも、国家が自分たちを救済するのは当然と考えているからだ。

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従って、フランス政府もゴーン事件は、国家的事件と考えている。

ゴーンが3度目に逮捕された12月22日に会った仏外務省のアジア担当の高官が、真っ先に口にしたのは、「日仏の重要外交日程への懸念」だった。6月の大阪でのG20と8月のフランス南西部ビアリッツでのG7時に、ゴーン事件が影を落とさないかとの懸念だ。

マクロン大統領はすでに、昨年11月のアルゼンチン・ブエノスアイレスでのG20の際、安倍首相との会談でゴーン事件に言及している。「司法の独立」尊重の日本の安倍は当然ながら、取り合わなかったし、今後も関与するつもりはないが。

実はマクロンとゴーンの関係は微妙だ。日産がゴーン逮捕に踏み切ったきっかけの1つとして指摘されているのが、日産・ルノーの合併問題だが、言い出しっぺはマクロンと言われている。ゴーンが当初、合併に反対したので、両者の関係は良好ではないとも伝えられている。