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地に堕ちた栄光…在仏30年の女性ジャーナリストが見るゴーンの悲劇

国家にも、ルノーにも見捨てられ…
20年前、日本人として初めてカルロス・ゴーンへの単独インタビューを行った、在仏30年のジャーナリスト・山口昌子氏。「日産の救世主」時代のゴーンの輝かしい功績と栄光を振り返る一方(前回記事「20年前の「日産の救世主」ゴーン、その知られざる〝光〟の素顔」)、金銭面での疑惑が深まり、ルノーにもフランス国家にも見捨てられたゴーンが辿る運命は、暗澹たるものだと語る。

地に堕ちたカリスマ経営者

カルロス・ゴーン(64)が東京地裁に勾留理由開示手続きで出廷した時の長期刑務所生活を物語る頬のこけたイラストには、フランス中が強い衝撃を受けている。

有罪無罪にかかわらず、「地に堕ちたカリスマ経営者」との印象は免れず、これまで「推定無罪」を盾にしてきたルノーも、トップの人選に入るなど、ゴーンの復活は事実上、ありえない状態だ。

ルノー側はこれまで、解任しない理由として、公判で有罪が確定するまで、「推定無罪」と規定した仏法を盾に、解任を保留してきたほか、「ゴーン氏の罪状の詳細が不明」としてきた。

しかし、今回の勾留手続き開示により、直接の理由として「海外逃亡の可能性」と「証拠隠滅」のほかに、金商法違反容疑や特別背任容疑などの内容が詳細に明らかにされたことにより、この理由が成立しなくなった。

さらに、追い打ちをかけるように、東京地裁が特別背任などで追起訴を決めたほか、証券取引などの監視委員会が金商法違反(有価証券報告書の虚偽記載)の罪で、ゴーンと先に保釈されたグレゴリー・ケリーも刑事告訴したことで、事態は新局面を迎えたとの認識が広まっている。

しかも、ゴーン個人の所得税及び、日産・ルノーの「アライアンス」としての会社組織の税申告地がオランダ・アムステルダムであることが、左派系日刊紙「リベラシオン」によってすっぱ抜かれたことで、ブルノ・ルメール財務相がルノーに対して、詳細な報告を要請したほか、ルノーの労組が「トップの交代」などに関して、明確は回答を突き付けており、早急に対処が迫られている。

日程的にも2月14日には、2018年度の業績発表が迫っているほか、6月12日には株主総会も控えている。いずれもゴーンが毎年、主宰してきただけに、早急に後任を決める必要がある。

 

「富裕税」逃れの疑惑

フランスの労組は企業ごとではなく全国単位、職種別単位の労組だが、ルノーの労組はかつては、「泣く子も黙るCGT」と言われた共産党系の「労働総同盟(CGT)」の根城として、最強を誇ってきた。

共産党の衰退と、最近は「黄色いベスト」に代表されるように、無党派のデモが幅を利かせているものの無視できない存在だ。

その労組が、これまで何度か、「トップの交代はあるのかないのか」などの質問状を経営陣に突き付けてきたが、「いまだに回答がない」(ルノーCGTファビアン・ガシェ中央代表)と、不満を募らせている。

ルノーのもう一つの強力労組、社会党系の「労働者の力派(FO)」も「事態を明白にする時がきた」(マリエット・リ代表)と指摘しているほか、管理職組合(CFE-CGC)も「ゴーン氏の功罪とは無関係に、日産とのアライアンスを見直す時期だ」(ブルノ・アジエール代表)と述べるなど、各種労組の声が強くなっている。

仏当局はゴーン事件発生の当初、ゴーンの脱税問題や金商法違反の調査結果を即、「問題なし」(ブルノ・ルメール経済相)と発表したが、これは所得税の申告地をフランスからオランダ・アムステルダムに変更していたので、所得税関係の書類が存在しなかったからだ。

10日の電子版で「リベラシオン」がすっぱ抜き、仏各種メディアが続報したところによると、ゴーンが申告地をフランスからアムステルダムに移したのは2012年。しかも2002年には日産・ルノーの「アライアンス」も、会社組織として、同地を税申告地にしていたことも判明した。

なぜか。

答えは簡単だ。フランスには、高額所得者に対する富裕税(ISF)が存在するが、オランダには存在しないからだ。

居住者の資格として、1年のうち183日在住する必要があるが、日産とルノーの社長を兼務して日本とフランスを中心に世界を飛び回っていたゴーンがこの条件をどうやって満たしたのか。ISFは存在しなくても、ゴーンの莫大な所得税による恩恵を受けているオランダ当局は目下のところ黙して語らずだ。