『キム・ジヨン』を読んだ女子が抱く、共感・苦しさ・羨ましさの正体

韓国女性は「声を上げる」を知っている
西森 路代 プロフィール

付け加えておけば、前述した通り、その後のキム・ジヨンの人生は教育を受けたからといって順風満帆とは言えない。せっかく大学を出て就いた仕事でも、女性だけが結婚・出産によって、退職せざるを得ない事例が、キム・ジヨンのほかにもいくつもあることが描かれる。

たとえ教育を受け、競争に参加できても、女性は結局、そうしたポジションに戻ってしまうということが、強調されているように思う。

IMF危機後に急速に女性が仕事の場で活躍するようになったことで、韓国では、出産と仕事の両立という新たな問題が日本以上に切実さを持っているのではないか。それに加え、結婚、出産の場面では、以前のような家父長制度が頭をもたげ、自身の親や、夫の両親からの「孫はまだか」「男の子はまだか」という重圧も強い(これは日本よりもひどいかもしれない)。

今の韓国の若い母親たちは、仕事と育児の両立の困難、家父長制に苦しめられることと言う、二重の意味で重圧を受けているのかもしれない。

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韓国は「行動で社会は変えられる」ーー日韓の違い②

本書を通して見えた、さらなる日韓の違いを指摘しよう。韓国では女性たちが自分たちの「意志」「行動」によって何かを変えるということに対して、日本よりも罪悪感を持つことが少ないのではないかと思うのである。

たとえば、本書の前半に、キム・ジヨンの小学校時代のエピソードが登場する。

この小学校では、男子が先、女子が後という出席番号順のせいで、女子が男子より後に給食を食べ始める仕組みになっている。その影響で女子は給食を食べる時間が少なく、なかなか時間内に食べ終われない。その結果、理不尽にも教師から怒られてしまう。だが、彼女たちはこの不満を元に女子だけで話し合い、教師に直談判してそれまでのやり方を変えさせるのだ。

 

こうした「女性が現実を変える」事例は、実際の韓国社会でも散見される。

象徴的なのは、2010年代半ばから、雑誌、映画、芸能人の発言などにおける女性蔑視に対しても抗議が増えていったことだ。

例えば、2015年、韓国で発売された雑誌『MAXIM KOREA』が表紙に、女性の足にテープが巻かれ、トランクに押し入れられた写真を採用した際にも、拉致や強姦を思わせるとして抗議の声が上がり、オンライン上では10万人の署名が集まった。

同じく2015年、ラップバトル番組「SHOW ME THE MONEY 4」の中でのあるアーティストの女性蔑視発言が問題となった際にも、抗議が集まり、番組は放送通信審議委員会から懲戒処分を受け罰金を払うことになった。

この二件は、MeToo運動よりもはるか前のことであった。女性蔑視的な表現に対しては、毅然と対処するという土壌が早くから立ち上がっていたことがわかる。

こうした「行動によって何かを変えられる」という信念は、その後、MeToo運動とも関わってくる。また、単純には言えないが、民主化運動によって体制を変えたという歴史をごく最近(1987年)に経験した国民であることが影響しているのかもしれない。

「恋人に読んでほしくない」という韓国男性の反応

最後に、本書が韓国社会のどのような空気のなかで受容されているかに言及しておこう。

今、韓国では、社会全体に女性蔑視を許さないというムードが広がり、本書をはじめとしてフェミニズムの小説や本が多数出版されている。これには「江南通り魔事件」の影響がある、ということは、そこかしこで指摘されている。

「江南通り魔事件」とは、2016年、ソウル市内の江南駅付近の男女共用トイレで35才の男性が、22才の女性を刺した事件だ。またその犯人が「女性を狙った」という趣旨の発言をしたことから、女性蔑視による事件として注目を集めたのだった。