『キム・ジヨン』を読んだ女子が抱く、共感・苦しさ・羨ましさの正体

韓国女性は「声を上げる」を知っている
西森 路代 プロフィール

「ちょうどいいブス」が推奨される日本との違い

少し話がそれるが、韓国の教育におけるこうした進歩性には、IMF経済危機(以下、IMF危機)が大きく関わっていると考えられる。周知の通りIMF危機とは、1997年のアジア通貨危機をきっかけにIMFが韓国政治に関与し、痛みを伴う大改革が行われたことを指す。その後の韓国文化に巨大なインパクトを与えた大事件だ。

たとえば本書でも、IMF危機によって、安定した公務員の職に就いていたジヨンの父親が退職勧告を受けて無職になる記述がある。その後、フランチャイズのチムタク(鶏の甘辛煮)屋を始めたかと思えば、フライドチキン屋に業態転換したりする。

こうした光景は、K-POPや韓流ドラマ、韓国映画などで同国の文化に触れてきた人にとっては、おなじみのものではないだろうか。

IMF危機は、韓国を「競争社会」に変えたとされる。多くの親は、IMF危機でボロボロになった社会において、子供を何かしらの職業に就かせるために様々な分野で教育と投資を行うことを心に決め、それを実行した。

たとえば現在、K-POPがグローバル化を目指してからのアイドル第一世代ともいえる、東方神起のユンホは1986年生まれだが、やはり彼が中学に入ったころ父親がIMF危機の煽りを受けて職を失い、ユンホがバイトをして家族を助けていた。

また、その頃にアイドルを目指すようになり、野宿をしながらK-POPスターになるためのレッスンを受けたという話は有名だ。

東方神起のユンホ〔PHOTO〕Gettyimages

キム・ジヨンのように1980年代生まれの世代、そしてその親は、多かれ少なかれ、このようなIMF危機以降の社会の過酷さを強く意識せざるを得ない。厳しい社会を生き抜く術を誰もが身につけなければならないというプレッシャーにさらされているわけだ。だからこそ女性も、「女だから」という理由で教育を受ける機会を奪われることが減っていった可能性が高い。

もちろん、こうした競争社会の殺伐とした空気を安易に肯定するべきではないだろう。女性の社会進出が進んだのはいいものの、その分、人々の間で格差が拡大してしまったのでは、喜んでばかりはいられない。そのことは強調してもしすぎることはない。

 

しかし一方で、「ジヨン氏姉妹は一度も、良い男性に出会って嫁に行けとか、良い母親になれとか、料理が上手でなきゃいけないとか言われたことはなかった」(65ページ)といった描写を読むと、どう感じるだろうか。

日本では、いまだに「女子力」という言葉によって、「家庭的な女性こそが魅力的」というイメージが幅を利かせている。

さらに、女性は真っ当に能力を高めるのではなく、愛嬌や外見――おバカであること、「ちょうどいいブス」であること――による評価をうまく利用すればいいと一部のテレビ番組などでは推奨されていたりする。それに比べると、少なくとも教育の観点について韓国をうらやましく思ってしまうのは、仕方ないことではないだろうか。