腰痛は「ウォーキング」で、なぜ良くなるのか?

「心療整形外科」を始めた医師が説く・前編
谷川 浩隆 プロフィール

「こころ」と自己治癒力

とはいえ、私は決して「腰痛の原因はこころだ!」などと言っているのではありません。腰は骨、神経、筋肉、血管などさまざまな組織からできています。そしていまだに医者が解明できていない、それらの組織のミクロの故障が必ずあり、それが原因で腰痛が起こるのです。

しかし腰自体が原因の腰痛でも、その痛みの感じ方や程度、そして自己治癒力には、ストレスや不安が強く影響しています。

問題は、患者さんがこれを受け入れらるかどうか。素直に「こころの影響」が理解できれば、腰痛そのものの多くは自分で治すことができるのです。

これは椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症のような、実際に腰の異常が痛みの原因になっている病気の場合でも同じです。このような病気ですら、ストレスや不安のようなメンタルの状態が患者さんの痛みの感じ方、痛みの受け入れ方に大きく影響しているのです。

ストレス、不安、心理、メンタルといった用語はすべて「こころ」に関係し、医学的には「心理的要因」といいます。これに対して腰そのもの、つまりからだの原因は「身体的要因」、あるいは「器質的要因」といいます。

患者さんは実際に腰という身体の器官が痛いのですから、「私の腰痛の原因は身体的要因であって、心理的要因なんかじゃない」と考えて当然です。

従来は医者もそう考え、だから身体的要因については医学的な研究がさかんにおこなわれてきました。反対に腰痛におよぼす「心理的要因」なんてことは、これまで研究されてきませんでした。

「腰痛には何らかの心理的要因が関係している」とわかってからも「それなら、腰痛の患者さんを心療内科に紹介して診てもらおう」とか「精神科や心療内科と協力して患者さんを診よう」という結論になってしまう。

整形外科医が自ら精神科や心療内科を勉強して、ひとりの整形外科医が身体的要因と心理的要因の両方から患者さんと向かい合う、という発想には至らなかったのです。

腰痛患者さんの願いはもちろん「腰痛を医者がすっきり治してくれること」です。肩こりに悩む患者さんもヒザ痛の方も同様でしょう。

ところがこれがそう簡単ではない。

だからこそ本やインターネット、テレビなどで、さまざまな腰痛の治療法が紹介されています。体操やエクササイズ、健康食品やサプリ、寝具やコルセットにいたるまで実に多くの方法が世の中にあります。

いずれもうたい文句は「この治療で腰痛は必ず治る!」。でも万人が認める決め手の治療法なんてありません。

「決め手の治療法」がないからこそ、百花繚乱の治療法が次々と提案されているのです。それぞれに独自の主張があり、ほとんど同じ内容が形を変えて紹介されていたりする。中には全く根拠がなく不安に思うものさえあります。

ではアカデミックな整形外科の学会の中では、しっかりした根拠がある腰痛の解決法がみつけられたのでしょうか。残念ながら「これで腰痛の問題が解決できた!」と、すべての人が認める学説はありません。言ってみれば腰痛ひとつがしっかり治せないのが「現在の医学の現状」なのです。

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腰痛治療には限界があるのか、あるならその理由はなぜか、そしてそうであっても腰痛に対して何かできることがあるか。

現状をみつめながら正直に書いた本が必要だと考えています。世の中にあまたある腰痛本や、特殊な体操を紹介する本ではなく、腰痛や肩こりなどの痛みに悩まされている方が、今日からでも始められること、すぐに手が届くこと、そしてすぐに考えられること……。

次回は、脊柱管狭窄症と診断された高齢の女性が、ウォーキングをすることで、日常生活を取り戻した例をご紹介しましょう。

谷川 浩隆
1962年松本市生まれ。信州大学医学部卒業。癌研病院、信州大学などに勤務後、安曇総合病院副院長。医学博士。1998年から、整形外科の臨床をしながら精神科の研修を受け、腰痛、肩こり、関節痛などの運動器疼痛をめぐる心身医学的アプローチの臨床と研究に従事、「心療整形外科」を提唱。2007年~信州大学医学部臨床教授。2013年7月に谷川整形外科クリニックを開設、院長に。著書に『腰痛をこころで治す 心療整形外科のすすめ』(PHPサイエンス・ワールド新書)がある。