腰痛は「ウォーキング」で、なぜ良くなるのか?

「心療整形外科」を始めた医師が説く・前編
谷川 浩隆 プロフィール

整形外科の治療では治らない痛みがある

なぜAさんのような診療ができたのか、それは整形外科医である私が精神科を学んで気づいたからです。そのことをもう少し詳しくお話ししましょう。

私は、クリニックを開業するまでの27年間、手術室のある病院に勤務しており、年間300人以上の患者さんの手術をしていました。

医者になって10年目までは、がん専門病院と大学病院で骨や筋肉にできる腫瘍を専門にしていました。その後、一般病院に移ってからは腰椎椎間板ヘルニア、人工関節、骨折など、整形外科のほとんどすべての手術を行ってきました。

整形外科の手術は、外科の手術とちがって、骨という硬い組織を相手にトンカチやノミを使うので体力もいります。だからよく大工さんに例えられます。長時間に及ぶ手術もあり、何件も手術が続いた日は、執刀者である私も汗だくでくたくたになりました。

椎間板ヘルニアという病気は、椎間板が神経を圧迫して坐骨神経痛をひきおこします。坐骨神経痛になると太ももの裏からふくらはぎにかけて、するどい痛みやジンジンするシビレが出てきます。手術は、患者さんに麻酔をかけた後うつぶせにして腰にメスを入れ、神経を圧迫している椎間板をとり除きます。

手術によってすっかり痛みやシビレがとれてくれればよいのですが、手術で悪いところをちゃんと治しても、症状が思いのほか取れず、術前のシビレや痛みが残ってしまう患者さんがどうしてもある程度の割合でいるのです。

また、痛みはまさに椎間板ヘルニアそのものなのに、MRIでなぜかヘルニアがまったくみあたらない、どんな検査をしてみてもいっこうに原因がみつからないという患者さんがいるのです。

どうも、痛みというのは原因がはっきりわからないものが多いのではないか、それならそれなりに患者さんがうまく生活していけるような方法はないだろうか、と考えるようになりました。

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整形外科医が精神科を学ぶと・・・

そこで、私がまずやったことは、精神科でこころや心理に関する勉強をすることでした。当時、私は病院で整形外科の責任者として働いていましたので、整形外科医としての仕事をしながら同時に精神科の診療も行うことにしたのです。

日本の現行制度では、医学生は医学部在籍中にすべての診療科の勉強をするため、医師国家試験に合格すると何科の医者にでもなれます。一つの診療科だけではなく、二つ以上の診療科の医者となることも理論的には可能なのです。つまり制度的には医学生の時の勉強だけで、あらゆる診療科を名乗ることができるのです。

しかし患者さんをみる実力がないのに専門を名乗るようなことを防ぐため、医師になった後ある一定の期間、研修を積み所定の審査を通過すると専門医の資格が与えられるようになっています。

当時勤務していた病院で、週三回の整形外科の外来と週一回の精神科の外来を行い、また整形外科の患者さんを診療しながら、一方で精神科病棟でも精神科の入院患者さんを受け持ちました。また近くにある私の母校の信州大学病院で、精神科のカンファレンスに毎週出席させてもらえることになりました。

整形外科の一般業務に加えて、精神科の仕事も増えたため多忙を極めましたが、この期間、私の頭の中では「こころ」(=認知)と「からだ」(=行動)が結びつく非常に重要で大切な経験をしました。