ネガティブ・スパイラルから脱出せよ!
ところで、日本のサラリーマンが世界最低レベルであるとされている「エンゲージメント」とは何だろうか?
「エンゲージメント」には、婚約、参画、参戦、しっくりかみ合うことなどの意味があるが、職場での「エンゲージメント」の定義は「仕事を自分事と感じ、楽しみ、組織に貢献しようとする従業員の自発的な姿勢・行動」である。今世紀に入ってから欧米を中心に浸透し、グローバル企業のリーダーの4分の3がエンゲージメントの向上のための投資を強化しようとしているというデータもある。また、株式投資の投資判断の指標とする動きまである。
周回遅れの感はあるが、日本でも近年急速に広まりつつある。
「社員満足度」は組織のパフォーマンスとの相関が見られないのに対し、エンゲージメントはパフォーマンスとの相関が実証されていることが特徴的だ。エンゲージメントは社員の創意工夫や「もう一歩」の努力にもつながるので、生産性が高まることは納得できる。
グーグル社やアップル社などシリコンバレーの新興企業は、社員のエンゲージメントが低下することを恐れている。ベンチャー時代が終わり、安定期を迎えると、組織は腐り始めることが多いからだ。熱意のない受け身の人材を増やすことは、すなわち生産性、創造性を落とすことになることを、彼らは過去の事例から知っているのだ。
そんな彼らが取り入れている手法が、社内アンケート調査を使ったエンゲージメント向上プログラムだ。
日本でも複数のコンサル会社が社員エンゲージメント向上プログラムを提供しており、多くの事業会社が満足度からエンゲージメントへと社内調査の手法をシフトしてきている。

各社のエンゲージメント調査の内容はそれぞれ特徴があるようだが、だいたい次のような要素を軸としている。
●組織の活動、自分の仕事に意味を感じられるか
●組織が自分に期待していることが明確か
●自分らしく組織に貢献できるか
●自分の努力に対してしっかり承認されているか
●上司、同僚と良好な人間関係を築いているか
●仕事を通して、人として、ビジネスパーソンとして成長しているか
これらの要素を見ると、「エンゲージメント」が高いということは単に一生懸命仕事をしているだけではないことがわかる。それは、目的意識、当事者意識をもって、チームと共に仕事に打ち込み、自分を成長させながら組織の業績も高めている状態なのである。
そこには、目標を達成し、自分も成長する、という「楽しみ」が見られる。どんなに我慢しても、ボロボロになって残業をしても、「楽しみ」を感じられなければ、生産性は上がらないのである。
これもギャラップ社の興味深い調査結果によると、エンゲージしていない社員はプライベートでも充実できていない傾向があるらしい。
つまり、エンゲージしている社員は精神的なストレスが少なく、プライベートでも充実していることが多いのだ。一方、同じ労働時間でもガマンばかりして楽しんでいない人は精神的ストレスが多く、仕事の生産性も上げられず、プライベートでも負の影響を及ぼし、結局空っぽの人生を歩むことになるということなのだ。
ここに日本のサラリーマンの負のスパイラルから脱却するためのヒントが隠されている。「エンゲージメント」を高めることによって、生産性だけでなく、日本人の幸福度も世界水準まで高めることができるのではないだろうか。