AIロボットは認知症介護を救うか?ロボット「ATOM」の試み

もっとも頼れるパートナーを目指して
奥津 圭介 プロフィール

ATOMの使命

IoTセンサーとチャットボット、さらにはその二つを相関させるAIを駆使して、認知症患者の生活支援のための記録を取り、それを認知症の方自身のために生かす。

「認知症の方が呈するBPSDは行動心理症状ですから、ただただ理解不能な行動や意味不明な言動は、えてして犯罪などの逸脱した行為と同じようにしか見えない。そこでその解決のため、ホットスポット分析や回帰分析を使うことができる。BPSDが起こりやすい場所や、気温や湿度、気圧などの条件からも予測できるんです。

また、センサーのキャッチした脈拍や顔色、声のトーンなどからも予測できる。KCiSなら『今日のこの時間は注意してみていてね』『ここで責めるような口調で注意したら、興奮して怒り出すから、気を付けてね』『徘徊するようなら、こうすれば86%の確率で止めることができますよ』など、大量に溜めた知見から、ケア技法の提示をすることができます。BTSDに対する『対症療法』ではなく、『予防』ができるようにというのが、私たちの考え方です」(羽田野氏)。

 

羽田野氏は、認知症の方や介護者に直接対応して会話するこのチャットボットを、今は癒しが主目的となっているコミュニケーション・ロボットに搭載することで、単なる「癒し」の存在ではなく、他のIoTセンサーと連携、照合して認知症患者の生活を支援するためのデバイスとして生かすことができると語る。そして冒頭の「ATOM」は、そうなるべき最適な要素を持っているという。

コミュニケーション・ロボットには大いなる可能性が

「コミュニケーションという行為のもっとも大切な要素に『予測』があります。現状のコミュニケーション・ロボットを、相手の気持ちを予測・予見して『おなか空いた?』『トイレに行く?』と言わせるケア・ロボットにすることは、近い将来、できるようになるでしょう。機能的には、世の中に出ている各種のスマートスピーカーでも実現可能です。しかし、私個人の意見ですが、そこはATOMにそうなってほしい。それが『鉄腕アトム』を模したロボットである「ATOM」の使命だと思っています」(羽田野氏)。

その大きな理由は2つある。ひとつは、ATOMはそのキャラクターとして、認知症の方の「過去の記憶」に、強く働き掛ける要素を持っているためだ。

「認知症の方は、直近のことを忘れてしまいますが、過去の記憶は強く残っていることが多い。記憶をつかさどる神経にはいくつか特徴があって、一度、言葉とその意味だけ覚えても、意外と忘れてしまう。多くの人は、受験勉強の内容を大人になると覚えていないでしょう? でも、3つ4つの連想される出来事と関連付けて覚えておくと、記憶を呼び起こすためのニューロン(神経細胞)の結合が強くなり、なかなか忘れないようになります。

特に今の高齢者の多くは、テレビアニメやマンガで幾度となく『鉄腕アトム』に触れているでしょう。かつて2Dで見たアトムが今、3Dで目の前に来て、話しかけている。普通にAIスピーカーに何か言われても、耳には入っても頭には入ってこないという認知症の患者さんも、ATOMとの会話なら、対応することができる可能性が高いでしょう」(羽田野氏)

もう一つの理由は『鉄腕アトム』がロボットの世界のパイオニアであり、先頭を切って歩くべき存在であるからだ、という。

「息子を亡くした科学者が、その代わりに作ったロボット。さらにロボットであるがために親から見放されて、数奇な運命をたどりながらも人間と触れ合うごとに優しさを持つ。そして最後は、太陽に飛び込んで人類を救う(モノクロ版テレビアニメ1963-1966年の最終回)。そんな自伝のあるロボットは、他にいませんよね。ATOMは今の機能にとどまらず、業界の先駆者として走り続け、成長し続ける使命があると思っています」(羽田野氏)。

コミュニケーション・ロボット「ATOM」は、人間、特に認知症を患う老人にとって、もっとも頼りになるパートナーにならなければいけない。羽田野氏がATOMに託したそんな思いは、作者である手塚治虫の思い描いた「アトム像」とどうつながっていくのか。そんな話を伺いたくて、手塚プロダクション取締役の清水義裕氏を訪ねると、面白いものを見せてくれた。紙が変質するほど古びてしまった、手塚治虫氏直筆の企画書だ。

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