佐久間 僕が石黒研究室に入りたいと思ったのは、石黒先生のテレビ出演やアンドロイドの展示などを見て、先生の究極的な目標は技術そのものではなく、「人間を理解する」ことだと感じたからでした。
僕はSFアニメ『ハーモニー』や、アルフォンス・ミュシャの絵画『ハーモニー』──偶然これらは同じタイトルなんですけど、これらに強い影響を受けて、「叡智をもって人に影響を及ぼし、世界に調和をもたらす」というビジョンを持つようになりました。人間を理解した先で、私たちの意識を変えるような働きかけがしたい。そういった研究が、石黒研究室でならできると思ったんです。
──しかし、本当にAIの発展によって争いがなくなる未来は訪れるんでしょうか。人のつながりを生むはずのSNSで、他人への攻撃が日々行われている現状もあります。
佐久間 二つの方向性があると思っています。それぞれ極端にいえば、一つは攻撃者などの不快なものは目にしなくなる方向。これは研究が進んでいると思いますが、自動的に不快な情報に対してのミュートが行われれば、嫌なものを目にすることもなくなります。
ドワンゴ創業者の川上量生さんも語っていますが、技術が発展して全人類それぞれにとって理想のバーチャル世界を提供できれば、自分だけの都合のいい世界で生きることもできます。この方向性では争いがない代わりに、人々の邂逅はなくなり、つながりは閉じていってしまいますね。
その反対は、お互いが深く理解しあう、極端には全人類が意識を共有している世界です。SF作品には、昔からよくありますよね。先ほど挙げたアニメ『ハーモニー』もこちらに近いですし、『エヴァンゲリオン』に出てくる人類補完計画もそうでしょう。でも、これはこれで不自然な感覚はあります。
僕のビジョンはどちらかと言えば後者寄りですが、全ての人の意識を統合したいとまでは思っていません。個人としての意識は残しながら、相手の立場に思いを馳せることで争いを失くすことはできないかと考えています。
世界に調和をもたらすことができるのであれば、認知科学者として、特定の技術や分野にこだわるつもりはありません。仮に政治家や活動家になったほうが早いと思うなら、そっちに舵を切ることもありえなくはない。ある意味、見境なく手段を講じて人類のハーモニーを目指すつもりです。