「AIで争いのない世界をつくる」ある大学生の壮大な試み

ヒントは『君の名は。』にある
QREATOR AGENT プロフィール

──見分けがつかないレベルに似せたアバターが、勝手にそれらしく動く。すると、何ができるようになるんでしょうか。

佐久間 僕がアバターを操作しながら話す映像と、僕の音声に合わせてアバターの動きが生成された映像とを見ながらそれぞれビデオ通話をしてもらいます。その体験を比較し、そこに違いを感じたとしたら、それが誰かと対面している意識について考えるヒントになると思います。この実験では「人間らしい動きとは何か」を考えられることになります。

誰かに僕の身体に乗り移ってロールプレイしてもらう他者から自分への共感。それに並立するような、自分のように振る舞うのに、それは僕ではないというドッペルゲンガー的な体験。双方の装置を通じて人の意識の研究が深められるのではないかと思っています。

あるいは、だいぶ先の話になると思いますが、こういった研究が発展して、モブアバターが人間らしく自然に動くバーチャル世界を作ることもできるかもしれません。僕が目指す方向性ではないですが、人々が各々のために最適化された70億のバーチャル世界で生きることで、現実世界での対立がなくなるのだとしたら、それは争いをなくすための手段の一つになると思います。

 

高校時代に味わった「共感の拒絶」

佐久間 そもそも、争いをなくすことや共感の促進を考えるようになったきっかけは、高校の文化祭での体験でした。

高校では演劇が盛んで、クラス対抗で得票数を競っていました。僕はクラスの監督と責任者をさせてもらっていて、みんなで取り組んだ甲斐あって1000~2000人のお客さんに足を運んでいただきました。一年近く準備していた演劇で、そのままなら優勝できるかもしれなかった。でも、ある先生に投票の不正を疑われて失格になってしまって……。

いちばんの問題は、僕が日頃からその先生に目をつけられていたことでした。これは僕と先生との関係の悪さが招いたことで、でも、クラスメイトは僕に文句を言うどころか、必ずしも仲が良くなかった人たちまでも「一緒にやれて本当に良かった」と言ってくれたんです。一方で、その先生は最後まで話を聞くこともしてくれませんでした。その時から、私たちの共感や意識の不思議さについて考えるようになりました。

──クラスメイトの“共感”と先生からの“共感の拒絶”、両方を同時に体験したと。確かに、現実には話せばわかる状況ばかりではありません。

佐久間 共感しようという最初のスイッチが入りにくい場面があったり、あるいは共感する能力が必ずしも高いとは言えない人は一定数います。私たちには、現代社会では育みきれていない、もしくは発揮しきれていない能力があるのかもしれません。今は研究を通じて人間の意識を理解し、そうした部分に影響を与えられればと思っています。