写真/栗原洋平

「AIで争いのない世界をつくる」ある大学生の壮大な試み

ヒントは『君の名は。』にある

「人間の仕事を奪う」との声も聞かれる人工知能(AI)。そのAIを、争いのない世界の実現に用いようとする現役大学生がいる。「マツコロイド」の開発でも知られる大阪大学・石黒浩教授の研究室に所属する、認知科学者の佐久間洋司氏だ。

深層学習発祥の地であるトロント大学で1年間の交換留学を経験し、日本最大級のAIコミュニティを牽引する彼が掲げる「人を優しくする技術」とは何か。AIの発展によってもたらされる平和とはどのようなものなのか。研究の現場から明らかにする。

(文・編集/福田さや香+YOSCA 企画編集/FIREBUG+武田鼎 写真/栗原洋平)

短期間で愛し合う『君の名は。』の不思議

──「人を優しくする技術を通じて、争いのない世界に貢献する」ことを目指し、AIやバーチャルリアリティ(VR)を用いて人間の意識に変化をもたらす研究に取り組まれていると聞きました。「人を優しくする技術」とは、一体どういうことですか?

佐久間 世界から争いをなくすために、人間が持つ共感する能力、言い換えると思いやりのようなものを促進したいと思っています。

そもそも争いはどこから生まれるのかというと、「人々の心の中」だと考えています。これは世界の平和を目的に設立されたユネスコの憲章の前文にも「全ての争いは人の心の内側から生じる」と定義されている通りです。僕はこの人の心や意識のようなものを、あらゆる科学や技術を用いることで、変えることができないかと考えてきました。

佐久間洋司氏

いま取り組んでいるのは、VRを活用した“入れ替わり”です。映画『君の名は。』をご覧になった人は多いと思いますが、あの映画を見て、なぜ1~2カ月という短期間のうちに瀧と三葉があんなにも愛し合うようになったのか、不思議に思いませんでしたか。あれほどすぐ人を好きになるということを、理解できないという人もいると思います。

でも、ある異性と身体が入れ替わったことで、その人のように振る舞い、その人の家族や友人とも接するうちに相手への共感が生まれたとしたら、短い時間でも好きになる可能性は十分にあるんじゃないかと考えています。こうした意識を検証するための第一段階として、まずは“僕に成り代われるVR”を製作しています。

 

個人への共感を高めるVR装置の可能性

──白人が黒人のVRを体験することで差別的な感情が減少したり、高齢者の体をVRで疑似体験することで高齢者への理解が進むなど、特定の属性に対する理解促進の実験が過去にありました。佐久間さんの研究は、属性ではなく“個人”を疑似体験するということですか?

佐久間 そうですね。僕が実現しようとしているのは、ある特定の個人に対する共感が育まれるようなVR装置です。僕を3Dスキャンしてアバターを作り、他者がVRゴーグルを通して手元を見ると、僕の手が映る。鏡を見れば「佐久間洋司」の姿が映っている。まさに『君の名は。』のような体験ができるわけです。

この装置を使って佐久間洋司という人間をロールプレイしてもらい、装置を使わずにロールプレイした場合などとの意識の変化を比較して、どのような体験によって共感性が高まるのかを明らかにしていきたいと思っています。

また、並立する研究として、3Dスキャンしたデータを身にまとって僕のように振る舞うAIを作ろうとしています。今注目されているGenerative Adversarial Network(GAN)という手法を使うのですが、たとえば、こうやって僕が話しているときのジェスチャーをAIに学習させ、「僕らしい動き」を生成させることを目指しています。