メイウェザー戦の次に那須川天心を待ち受ける「待望の一戦」

思いは交錯するけれど

大晦日の日本を震撼させたメイウェザーVS.那須川天心。格闘ファンの間でも賛否両論が飛び交ったが、元キックボクサーでK-1の舞台でも活躍した佐藤嘉洋氏が、いてもたってもいられず筆をとったーー。

二つの想い

那須川天心は、日本のキックボクシング史上最高の選手だと認識している。2016年、18歳でタイの二大殿堂であるルンピニースタジアムの現役王者相手に試合開始直後から猛攻、そのまま相手を圧倒して何もさせず、ありえない至近距離から顔面へのバックスピンキックで完全KO勝利するという快挙を成し遂げた。

その後も連戦連勝を続けKO連発。2018年は世界トップレベルの実力を誇るタイのスアキム、ロッタンら相手にも全く遜色のないパフォーマンスを展開し勝利。無敗街道まっしぐらなのである。現在キックボクシング戦績28戦28勝21KO。

また、天才にありがちな相手をナメたり、手を抜いたりするようなことも一切ない。私は他媒体のコラムで彼のことを「もはや天才という枠ではなく宇宙人」と評した。

 

那須川天心は、階級制のある格闘技なら何をやってもトップになれる資質がある、と私は思っている。他競技に話を広げるならば、野球の大谷翔平、フィギュアスケートの羽生結弦、将棋の藤井聡太くらい凄い。K-1MAXの枠でいうなれば、ブアカーオやジョルジオ・ペトロシアンくらい凄い。いわゆるスーパーアスリートなのである。

昨年大晦日に行われたばかりのフロイド・メイウェザー・ジュニアvs那須川天心のカードが発表されたとき、私の胸には二つの想いが交錯した。

【PHOTO】gettyimages

まず一つ目は、期待。漫画を超えるような超ド級のカードに加え、相手の土俵に限りなく近いほぼボクシングルールに挑む那須川に対し「やったれ!」という気持ちだった。未来の出来事に絶対はない。相手はボクシング史上世界最高の選手との呼び声高いあのメイウェザー。ルールだけでなく階級差もある。本来なら敵うわけがない。

しかし、「絶対に」敵うわけがない、わけではない。「あの那須川天心だったらひょっとしたら」という気持ちを、少なくとも私は持っていた。そのくらい彼のキックボクシングにおけるパフォーマンスは飛び抜けていた。

もう一つの想いは、危惧。もし那須川がメイウェザー相手に大番狂わせを起こしたら、格闘家たちのこれまでやってきたことが根底からひっくり返されることになる。メイウェザーは、すでに引退しているとはいえスーパーウェルター級(69.853kg)まで世界タイトルを保持していた選手だ。対する那須川天心もキックボクシングの世界タイトルは保持しているが、その階級はなんとフェザー級(57.153kg)。戦っている階級として約13kgもの差があるのだから!

対人競技である格闘技の多くに階級制を導入している理由は、鍛え抜かれた極限状態での1kgの差がどれだけ大きなものかを歴史が証明しているからだ。一般人の1kg痩せた、太ったという次元ではない。選手側は徹底した体重管理を求められる。それは究極に絞り込んだ1kgであり、究極に鍛え上げられた1kgなのである。

計量当日はグラム単位で体重を落とす。大勢の人間が集まる中、数十gオーバーすればパンツを脱いでまで体重計に乗る。そのくらい厳しく繊細な計量を経て、選手たちはリングに上がっているのだ。

それがもし、13kg差をものともせず、那須川がメイウェザーを倒してしまったら……。必死にやってきた厳しい減量の常識が覆ってしまうことになる。「あんたたち細かく体重分けてやっているけど、那須川天心は体重なんて問題にしなかったよ」という目線でファンから見られるようになる。

私はそんな期待と危惧の二つの想いに挟まれて、ツイッターから動向を伺っていた。