# 資本主義

「世界一成り上がった男」がマウンティングしたかったもの

資本家階級を引きずりおろせ
鈴木 貴博 プロフィール

株主と手を組んで労働者から搾取する

しかしこの後、歴史は皮肉な発明を生み出します。投資家が自分たちの地位をより強固に守るために、そしてロス・ジョンソンがやっているような動きがすべての大企業に広まらないようにするために、とても有効なイノベーションが誕生したのです。

それが「ストックオプション」という発明品でした。この発明は、資本主義をゆるがす経営者と株主(投資家)の戦いを解消し、ふたつの利害関係者がまったく同じ利益を求めて手を握るようになるという「新しい虚構」の中心コンセプトになりました。

会社が生み出す金を必要経費か利益かで取り合うからこそ、経営陣と株主の争いが起きるわけです。そうではなく、経営陣に架空の株式を与えて株主の一角に取り込むのがストックオプションという発明です。

ストックオプションを与えられた経営陣がすぐに気づいたことは、彼らが一番大きく富が得られるのは株価の上昇だということです。だとすれば経営陣から見れば、やるべきことは自分たちにお手盛りのベネフィットを上乗せするのではなく、むしろプライベートジェットのような無駄な経費を削減して1セントでも多く会社の利益を残すことになります。そのほうが自分の利益につながるからです。

 

このようにストックオプションを付与するという一大発明によって、CEOや上級副社長のような大企業の経営幹部は、仮想的に株主と同じ利益メカニズムで恩恵を受ける存在となりました。

その結果、アメリカの経済界には年収が100億円を超えるような経営者が続出するのですが、その内訳を聞いてみるとたいがいのケースが「基本給としての年俸は1億円で、ストックオプションによる株式の増加分が99億円」といった形です。つまり生まれた巨額の役員報酬とはもともと架空の株主としての利益が形になったものでした。

経営者が株主と同じ利害関係でがっちりと手を組むようになった結果、資本主義全体で見ると「資本家と経営者が従業員からの搾取をさらに厳しくしていく」という世界的な流れが確立されました。ファーストリテイリングの柳井正社長が予言した「これからは年収1億円の社員と年収100万円の社員へと二極化する」という方向へと、資本主義の虚構が動きはじめたのです。

鈴木貴博『格差と階級の未来 超富裕層と新下流層しかいなくなる世界の生き抜き方』(講談社+α新書)