# 資本主義

「世界一成り上がった男」がマウンティングしたかったもの

資本家階級を引きずりおろせ
鈴木 貴博 プロフィール

堅実な会社でド派手な浪費

合併直後、ロス・ジョンソンはナビスコのナンバーツーになりますが、CEOのボブ・シェイバリを得意の「爺殺し的チャーミングさ」を駆使して篭絡していきます。そして巧妙にナビスコの経営幹部を、かつてのスタンダードブランズでの彼の部下たちと入れ替えていきます。最終的にナビスコの経営幹部24人のうち21人までがスタンダードブランズからやってきたロス・ジョンソン・チームにすっかり置き換わるのです。

ロス・ジョンソンは株主に対して再び挑戦をはじめます。ナビスコがこれだけの業績を上げられるのはロス・ジョンソンをはじめとする経営陣の力である。だから経営陣の待遇をもっとよくすべきだというわけです。

そしてボブ・シェイバリからCEOの座を禅譲されたロス・ジョンソンの基本年収は100万ドルを超えることになりました。ジョンソンの下に控える「陽気な奴ら」たちは、金遣いには堅実だったナビスコの社風をすっかり変えてしまいます。

ナビスコはさまざまなスポーツイベントに協賛し、取引先は以前よりもさらに華やかにエスカレートされたパーティーイベントで接待されるようになりました。ロス・ジョンソンは政財界やスポーツ界で華麗な人脈を広げ、会社の金は投資とも浪費とも境界線がわからない使途へと費やされるようになります。

RJRナビスコのトップに成り上がる

時代は巨大なマネーゲームの時代となり、ナビスコは今度はアメリカのタバコ業界ナンバーツーのRJRと合併してRJRナビスコという巨大企業に成り上がります。この合併劇は、RJRの経営陣がタバコという先行きが見えない単一事業から総合的な食品メーカーへとビジネスを変化させるという戦略を考えたことによって持ち上がりました。このときRJRはまずペプシコに、次にケロッグに合併話を持ち込んだのですが、どちらも断られ、3番目にドアをたたいたのがロス・ジョンソン率いるナビスコだったというわけです。

合併後、ロス・ジョンソンはRJR側の主だった有力者にゴルフクラブの会員権や高級マンションなど社有の資産を気前よく配ることで合併会社でも地位を強め、ついにはRJRナビスコのCEOへと上り詰めます。

 

そのRJRにはナビスコとはまた違う社風がありました。それが役員専用のプライベートジェット機で、2機のジェット機はそれぞれタバコの銘柄の「セーラム」の緑色と「キャメル」の茶色に塗装されていました。ロス・ジョンソンはこの制度が気に入り、ジェット機の数を10機に増やし、パイロットの人数は36人、専用の格納庫も建設され、それはRJR空軍と呼ばれるようになりました。

会社が生み出す利益を株主が受け取るか、それともベネフィットとして経営陣が略奪するか、これは限られたパイを奪い合う場合に起きる富の食物連鎖を巡る戦いです。

RJRナビスコのように役員全員がプライベートジェットで出張に出かけるような「業務上そこまで必要だとは思えないベネフィット」が生まれたのは、投資家と経営陣、そのどちらが会社が生み出す富を搾取するかのマウントポジションを巡る「戦い」だったわけです。

このような「経営者×投資家」の本格的な戦いがそのまま資本主義社会に広まれば、富を得るはずの投資家の地位が低下し、「会社は経営者や役員たちのものだ」という「新しい虚構」が資本主義のルールになる逆転劇が起きていたかもしれません。