# 資本主義

「世界一成り上がった男」がマウンティングしたかったもの

資本家階級を引きずりおろせ
鈴木 貴博 プロフィール

取り巻きたちとのパリピな日々

本社に移ったロス・ジョンソンは、月曜日の夜になると部下や取り巻きを引き連れて豪華なディナーを楽しむようになります。普段、けちけちCEOから細かいところまでつつかれている幹部社員たちは、金遣いの荒いジョンソンをすっかり気に入ってしまいます。

「陽気な奴ら(メリーメン)」と名付けられたロス・ジョンソンの取り巻きは今で言うパリピで、毎晩、明け方までパーティールームで飲んだくれます。会社にとって重要なことはその夜中の密室で決まっていくようになります。

やがてロス・ジョンソンの浪費癖にがまんならなくなったCEOは、ついに彼の錬金術の証拠をつかみます。彼は自分が影響力を持つカナダの子会社に、自分専用のリムジン代や巨額の交際費を代わりに払わせていたのです。

CEOは取締役会にロス・ジョンソンの更迭を提案します。アメリカの大企業の取締役会は、CEOとCFOを除くと他のメンバーは社外の人間で、役割としては株主つまり投資家の代理人です。

ところが、その取締役会もいつのまにか愉快なロス・ジョンソンに取り込まれていました。ジョンソン寄りの取締役会はその提案を否決して、けちけち経営のCEOを辞めさせ、ロス・ジョンソンを新しいCEOに就任させたのです。投資家の立場で見ても、現実に金を稼いでくれているロス・ジョンソンのほうが少なくとも当初は魅力的だったのです。

 

ロス・ジョンソンはCEOに就任すると、まず手始めに役員の給与を見直しました。それまでスタンダードブランズのCEOの給与は20万ドルだったのですが、それを48万ドルにアップし、他の役員の給与も倍増しました。

ここは注意すべきポイントですが、この決定でスタンダードブランズの役員の給料はそれまでの業界の最底辺から業界トップへと躍り出ました。1970年代当時のアメリカの大企業トップの給与は、現在の日本円で言えば5000万円程度。格差はこの程度の水準だったわけです。

しかし給与は少ないとは言っても、それをはるかに上回るベネフィットをロス・ジョンソンは会社の経費という形で吸い上げていきます。彼は営業用に18の有名ゴルフクラブの会員権を手に入れ、それまでゼロだった豪華な社用マンションも一気に増やしました。

悪い業績も「なかったこと」に

ジョンソンは部下にも気前がよく、いつも50ドル札を背広のポケットに入れて、ぽんと部下に奨励金として手渡します。そして気に入った取り巻きをつぎつぎと幹部に登用していきます。

彼はプロスポーツが好きで、有名なスポーツ選手の友人になって会社の金で彼らをサポートするのですが、愉快な形でその投資はリターンとなって戻ります。それらのプロプレイヤーたちは会社の販促活動に駆り出されるのです。たとえばスーパーマーケットの役員とのゴルフに誰でも知っているような有名アスリートが一緒にラウンドをしてくれるので取引先は喜ぶというわけです。

ロス・ジョンソンというとにかく愉快で金遣いが荒い男がCEOになったことで、スタンダードブランズは積極的にスポーツイベントに協賛したり、つぎつぎと新製品を誕生させたりするのですが、ロス・ジョンソンがCEOになってからの4年間でスタンダードブランズの業績は低迷します。浪費に近い投資は、そのポジティブなムードほどは回収できなかったのです。

ところがここで神風が吹きます。クラッカーなどのスナック分野で有名なナビスコがスタンダードブランズに接近してきます。話し合いの結果、スタンダードブランズはよりブランド力があるナビスコと対等合併するのです。これで経営者ロス・ジョンソンのスタンダードブランズにおける過去4年間の悪い業績は「なかったこと」となりました。