# 資本主義

「世界一成り上がった男」がマウンティングしたかったもの

資本家階級を引きずりおろせ
鈴木 貴博 プロフィール

経済もしょせん虚構だからすぐに壊れる

虚構とは言い換えれば、その社会で広く浸透している思想のことです。

たとえば経済が成長するためには私有財産が守られることが必要条件です。「他人の私有財産を奪うことは悪である」という思想が共有されていないと経済は発展できません。実際に1980年代の中国経済が発展できなかったことと、2000年代の中国経済が発展できるようになった間には、政府を含めたこの思想転換が重要だったのです。

この中国の例のように、思想とはその本質が虚構であるがゆえに、新しい思想に置き換わる現象が起きると、比較的柔軟に私たちはその新しい思想に適応できるようになります。ここが興味深い点で、このような思想転換は実際に過去の人類史で何度も起きています。

日本の経済でも過去、何度も「虚構」が崩れては、それを無自覚に「あれは虚構だった」と私たちが受け入れるという現象が繰り返されています。

たとえば「銀行は潰れない」「お上は銀行を潰さない」という虚構は1997年の北海道拓殖銀行の破綻を機に、誰も信じなくなりました。大企業は終身雇用と年功序列で成り立っているという虚構も同じく1990年代まではみなが信じていましたが、2000年代以降は逆に誰も信じなくなったのです。

 

今でも日本経済は虚構の上に成り立っています。「年金は若い間きちんと支払っていれば老後に損をすることはない」「公共投資は不況対策として有効だ」「国債は安全資産である」「日本円は紙くずではない」といった思想をみな信じて、税金や年金を国にゆだねて信じて生活を続けているわけです。

経済とは基本的に「虚構を信じるという人類特有の能力の上に築かれている仕組み」です。だからこそ一見おかしな状況にも誰も疑念を抱かず経済は今日もまわっています。とはいえ日本で言えば終戦、世界で言えばベルリンの壁の崩壊がそうだったように、
投資家>経営者>従業員
という虚構に対する疑問が生まれる可能性はあるはずです。

資本主義に挑戦した経営者

実はこの資本主義の虚構に挑戦する動きが、バブル期のアメリカで意外な形で登場することになりました。1980年代のアメリカでアンチヒーロー(悪い奴だけどカッコいい男)として脚光を浴びたある経営者です。

投資家>経営者>従業員
というルールに挑戦する経営者として経済界の注目を浴びたのは、RJRナビスコのCEOだったロス・ジョンソンです。彼の活躍(?)は1980年代のアメリカのバブル経済を描いた経済ドキュメンタリーの名著『野蛮な来訪者』の中で詳しく描かれています。

ロス・ジョンソンが何をやったのかというと、ひとつは巨額のお金を稼ぐ大企業を自分の財布のようにして、とにかく派手に会社のお金を使ったことでした。そしてもうひとつ特筆すべき彼の特技は、M&Aで合併した相手企業を支配することで、わらしべ長者のようにより大きな企業の経営者の地位を獲得していったことです。

ロス・ジョンソン Photo by University of Toronto Munk School

彼がそのまま成功していれば、今頃大企業の経営者は資本家よりも上に立って、富の生態系の頂点に君臨するようになっていたかもしれません。

ジョンソンの経営者としての地位が花開くのは40代になってから。スタンダードブランズという食品メーカーのエグゼクティブのポジションからはじまりました。

スタンダードブランズは当時、アメリカ第2位の地位にある食品メーカーでした。第2位と言っても典型的なフォロワー企業で、業界1位のゼネラルフーズの商品の横の棚に少し安い価格で商品を置いてもらう、これといって有名ブランドの商品を持たないメーカーです。『野蛮な来訪者』の中ではもっとストレートに「二流の会社」と表現されています。

当時のスタンダードブランズのCEOの経営方針はけちけち経営で、オフィスはさえないリノリウムの床に古ぼけたスチール製の机が使われているような、とにかく時代から取り残されたような会社でした。幹部社員の出張はエコノミークラスで、宿泊先はハワード・ジョンソンという安いモーテルに決まっていました。理由はハワード・ジョンソンのレストランがスタンダードブランズのお得意先だったからです。

ロス・ジョンソンはそのような会社にあって、CEOの目を盗んで会社のお金を使う天才でした。交際費をふんだんに使って取引先を喜ばせ業績を伸ばすのがロス・ジョンソンの得意技で、その業績が認められて、カナダの責任者から本社のナンバーツーへと昇格します。