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# 資本主義

「世界一成り上がった男」がマウンティングしたかったもの

資本家階級を引きずりおろせ
なぜ自分より経営者のほうが給与が高いか、考えたことはあるだろうか。実はこれは現代資本主義を支える虚構なのだ。ただの紙切れを紙幣とするのが虚構なのと同じように、投資家(株主)>経営者>従業員>という階級が存在し、会社のあげた利益の取り分はその順番で多く、労働者は搾取されるものと信じる虚構。しかし虚構を信じる人々がいなくなれば資本主義と搾取の制度も変わる。ベストセラー『仕事消滅』の著者・鈴木貴博氏の新刊『格差と階級の未来 超富裕層と新下流層しかいなくなる世界の生き抜き方』(講談社+α新書)から、その虚構に挑戦したある経営者の戦い方をご紹介しよう。

なぜ社員よりも経営者のほうが利益の取り分が多い?

ユヴァル・ノア・ハラリのベストセラー『サピエンス全史』によれば、人類が他の種の動物をおしのけて世界の頂点に立てた理由は「虚構を信じる能力」にあったそうです。

動物の中で「虚構を信じる能力」のある人類だけが組織だった大集団をつくることができました。一方で人類に遺伝子レベルとして非常に近いチンパンジーにはこの能力がない。だから集団を率いる強いボスザルの腕力に頼ることになります。そうなると集団はせいぜい数十頭までしか大きくなれません。

人類はチンパンジーとは違い、虚構を信じることができる。「神のお告げ」であるとか「王が誕生した神話」、そして「経済学における神の手」などを信じる能力があるために、直接会ったこともない人物の権威に従ったり、誰かが考えた抽象的なコンセプトを信じたりすることができるのです。そして人類は数万人、数十万人の社会を構築することができたというわけです。

『サピエンス全史』によれば、現生人類よりも脳が発達していたネアンデルタール人が絶滅したのも、ネアンデルタール人に虚構を信じる脳の力がなかったからだといいます。現生人類、つまりホモ・サピエンスが大集団を組んで行動するのに対して、少人数の集団しかつくれなかったネアンデルタール人は勢力を拡大できず、絶滅に向かったというのです。

その観点から言えば、経済の世界というのはまさに人類の「虚構を信じる能力」があったからこそ成立し発展できた世界です。

 

紙切れに印刷をほどこしたお札は、すべての国民が「政府が保証した紙幣である」という虚構を信じているからこそ、市中で通用します。

それと同じく、「社員」「経営者」「投資家」という異なる階級があって、会社が利益を上げた際の取り分は社員より経営者が多く、経営者よりも投資家(株主)のほうが多いのは当然であるというのも虚構です。そして世界中の人がこの虚構をドグマとして正しいことだと信じているから制度として成立しているのです。

特に日本社会では、経営者の取り分が多すぎると社会から白い眼で見られるという、アメリカにはない社会的な考え方が浸透しています。社員の年収が500万円の会社で社長の取り分が1億円だと「高すぎる」となぜか批判が起きるのです。

その一方で、会社の利益について「創業家が配当金として1億円を受け取っている」と聞いても誰もそれがおかしいとは思わないものです。これは、
投資家>経営者>従業員
というコンセプトが資本主義社会では正しいという虚構が日本でも広く共有されているから起きている現象です。