わずか半年で突然休園…待機児童「目玉政策」が引き起こした大混乱

新タイプの保育園に何が起きているのか
小林 美希 プロフィール

冒頭の事業者は、早朝・夜間保育以外の項目すべてをクリアする水準であったはずだが、不採択通知を受け取った。

同事業者の従業員の就業時間が昼頃から夜8時半までとなるため、朝7時半から夜6時頃が基本的な預かり時間となる認可保育所では預かってもらえず、これまで産後にやむなく退職した社員もいたという。

従業員の半数以上が女性で若手が多いため、産後の就業継続に保育は必要不可欠。現在も妊娠中の社員がいるため、企業主導型保育所の設置は悲願だった。

事業展開している地域はちょうど待機児童も多く、自治体保育課からも「保育所を作って地域枠で預かってほしい」と期待がかかっていた。

 

既に企業主導型保育所の運営実績もある。保育士を配置基準以上に雇い、研修も積極的に受け、賃金は全産業平均を上回る水準にするなど質を高める環境を整備した。決算は黒字続きだ。

そうした姿勢を評価した自治体の保育課からの紹介で入園を決めた親子もいる。2園目、3園目を作るという噂を聞きつけた保護者から100件を超える問い合わせもあった。開園を見通して事前説明会を行うと「すぐにでも預けたい」という人が続出した。

保育所設置に向けて申請するにあたり、物件も抑えていたが不採択になったことで無駄になった。保育所向けの物件は奪い合いだ。年度内の開設に向けて4月には物件を探し、5月には賃貸契約を結んだ。不採択となった物件を抑えるための費用だけでも約600万円の損失となった。

申請するまでの設計図や建設費用の見積もりをとるなど建設業者への支払いもかさみ、同事業者は「これまでコツコツと貯めてきた資金が全てただの損失になった。不採択になった理由さえ分からず、国を信じられない。今後、企業主導型を作ろうとは思えなくなった」と嘆く。

保育は誰のためにあるのか

企業主導型保育の問題を受け、立憲民主党の子ども・子育てPT(プロジェクトチーム)は11月に内閣府と児童育成協会からヒアリングを行った。

同席した世田谷区の保坂展人区長は「保育は誰のためにあるのか。あくまで、子どもの成長と発達を保障するもの。乳幼児の人格形成の土台を作る保育は大変重要だ。子どもの視点でどのように保育が行われるか多方面からチェックすべきだ」と語気を強めた。

「自治体の関与が必要だ」と訴える保坂展人区長

世田谷区は認可保育所の設置について独自のガイドラインを作り、基準や審査を厳しくしている。

一方で、企業主導型保育の設置を決めるのは、内閣府から委託を受けて審査などを行う児童福祉協会に権限があり、市区町村には設置についての決定権はない。

そのため、区から認可されない業者でも、企業主導型に看板をつけ変えれば参入できてしまう制度上の問題もヒアリングで指摘された。

ヒアリングの様子(中央は児童育成協会)

世田谷区は11月19日に内閣府に対して要望書を提出。この時点で区内では2018年度だけで5園が休園などしているため、企業主導型保育所の整備にあたって自治体の関与を強化すること、突然の休園などへの対応の強化を柱に改善を求めた。

内閣府は12月に「企業主導型保育事業の円滑な実施に向けた検討委員会」を設置。改善に向けた議論が始まった。

質の高い保育を実践できる事業者が保育所を運営できる制度設計にしなければ、最終的には子どもにしわ寄せがくる。それには審査の透明性は必要不可欠だろう。

そして、そもそも、保育所は児童福祉法によって市区町村に設置する義務がある。この大原則を無視して保育所整備を行うことの矛盾が露呈し始めている。保育所整備のグランドデザインを描き直し、軌道修正を図らなければならないのではないか。