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格差に絶望する前に、あなたが持つ「もうひとつの資本」を活かせ

1000万を3億にした「アマゾン男」
経済格差はAIの進化により今後ますます拡大するとの予想が圧倒的多数だ。AIによる「仕事消滅」で労働をベースにした「人的資本」のリターンは激減していき、多くの人が新下流層に沈む。しかし、人はもうひとつの資本を持っている。しかもそれは活かされることがほとんどない。活かされれば新下流層への転落を防ぐことができるというのに。ベストセラー『仕事消滅』の著者・鈴木貴博氏の新刊『格差と階級の未来 超富裕層と新下流層しかいなくなる世界の生き抜き方』から、鈴木氏が唱える「ふたつの資本」の考え方をご紹介しよう。

「年越し派遣村」に他人とまったく違う光景を見た男

2008年、リーマンショックが起きた直後のことです。この年の年末には「年越し派遣村」がニュースになりました。リーマンショックで世界経済の歯車が狂い、トヨタ、日立といった日本を代表する大企業が軒並み、巨額の損失を計上した年でした。その結果、どの企業も生き残るためにコストカットに走らざるをえない状況へと追い込まれたのでした。

人件費は損益計算書に占める影響が高いコストであり、かつ短期的なコストカットに向いた費用なので、世界中どこの会社でもこのようなときには人件費をカットします。この冬、契約期間が終わって「雇い止め」に遭ってしまう非正規労働者が続出したのでした。

大半の日本人はこの状況を見て心を痛めたと思います。大企業に勤めていらっしゃった方も「今は企業としてはどうしようもない時期だが、この苦境が過ぎたらなんとかしてあげたい」と心に感じていたことでしょう。

しかし、この光景を見て、まったく別のことを考えた人がいました。

「弱い立場の労働者は使われるだけ使われて、大企業に搾取されては捨てられるばかりだが、そうやって労働者をうまく搾取する会社は、きっと儲かるんだろうな」

 

その男は当時30代後半で、近い将来、マイホームを買うために1000万円の銀行預金を貯めていました。

リーマンショックをきっかけに人生を考え直した人は少なくありません。この男もこれをきっかけに「これから先の人生がどうなるのかわからないのに、住宅ローンをかかえて生活するのは怖いことだ。だったら一生借家住まいでいい。代わりに頭金で貯めたお金で、どこか労働者をうまく搾取する大企業の株を買ってしまおう」と考えました。

そこでふと見回すと、自分の部屋の中に同じロゴの段ボール箱がいくつかあることに気づきます。アマゾンドットコムから送られてきた商品です。

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搾取される私が搾取する側に回る

アマゾンについては2005年に発売されたベストセラーのビジネス書があります。横田増生さんというジャーナリストが潜入取材をしたアマゾンのビジネスモデルの内幕の話です。

このアマゾンの内幕本では、アマゾンのビジネスモデルがとても生産性が高く、非正規労働者を高度に設計された仕組みの中で秒単位で管理して働かせていく手法で、日本全国に翌日配送ができる仕組みを構築していると書かれています。彼はこの本を読んで、アマゾンが労働者を機械のように効率的に働かせているという点に注目しました。

そこで彼は、住宅購入の頭金だった1000万円を、資本家としてアマゾンに投資することにします。リーマンショックから世の中がようやく回復をはじめた2009年2月のことです。

「私はアマゾンが世界で一番、労働者からお金を搾取できる会社だと見込んだのです。私はサラリーマンとしては会社から搾取される立場ですが、今日からは株主として世界中の労働者から搾取をする立場も味わってみたいと思うのです」

アマゾン男の誕生です。

そう宣言して購入したアマゾンの株は2009年2月当時、1株65ドルの価格でした。当時のアマゾンドットコムの時価総額は現在の日本円にして約3・5兆円。今と比べるとまだ並の大企業とそれほど変わらない企業価値でした。アマゾン男がマイホームの夢をあきらめて株主の地位を獲得するために投資した1000万円は、それからいったいどうなるのでしょうか。